映画『シンクロナイズドモンスター(原題"Colossal")』感想 ――アル中だめんずうぉ~か~禁酒物語

白黒イラスト素材【シルエットAC】
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映画『シンクロナイズドモンスター』チラシ
公式サイト:
http://synchronized-monster.com/

色々と馬鹿馬鹿しい設定ながらも、なんだか微笑ましくもある映画だった。

ダメウーマン⇔怪獣のシンクロ率100%という、日本版のコピーは、明らかに一定層をターゲットにしているし……

怪獣が街で暴れたり、スペクタル・バトルが描かれることはない!
何と音声だけが流れて、観客に想像させるという、潔いというか、ある意味斬新な手法だった。
それは映画を観に来る人達が、怪獣映画、日本で言えば戦隊モノをすでに観ているという前提を踏まえたものだった。
ハリウッド映画でも『トランスフォーマー』『パシフィック・リム』『GODZILLA(ギャレス・エドワーズ版)』然りを既知としている。直近では『パワー・レンジャー』か?(私は観ていないけど)

ソウルの街並みに見立てられた小さな公園で、早朝ふらついてるとか、男女が取っ組み合いをしているとか……
ダメ大人のおかしな行動が、まさか日付変更線の向こう側で大災害をもたらしているという、シンプルだけど突飛な発想に驚かされる。
発想の勝利による低予算怪獣映画(※)だった。

同時に、色々な解釈ができると思う。

怪獣が肥大化した自意識の象徴と見立てられるし、遠く離れた異国の地の惨事はアルコール依存症の人間が周りに迷惑をかけていることに自覚がないことへのメタファーになっていたり……

依存症問題

求職中のライターであるグロリアはアルコール依存症で、度重なる問題行動から彼氏・ティムにフラれ、同棲していた家を追い出される。
仕事なし、家なしになった彼女は逃げるように田舎に帰り、幼なじみのオスカーと再会した。
彼が経営しているバーに案内されたグロリアは、酒瓶に目が止まってしまうと周りの音が次第に遠くフェードアウトしてゆく。 アルコール依存症の心理状態だった。

ハリウッド映画でも、アルコールや薬物など、依存症に焦点をあてたものは枚挙に暇がないだろう。
「死にたい」気持ちをほぐしてくれるシネマセラピー上映中』では、アルコール依存症がハリウッド映画界――俳優だけでなく製作関係者の中でも――身近な問題であることを指摘していた。

「死にたい」気持ちをほぐしてくれるシネマセラピー上映中―精神科医がおススメ 自殺予防のための10本の映画

グロリアがアルコール依存症になった原因はネット私刑にあった模様。
彼女が書いた記事が(どうも何かのブラックジョークを織り込んだものだったらしい)炎上したため、クビを切られた。
それは実際にあった炎上問題にもヒントを得ているようだった。
ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』に取り上げられていた――SNSで何気なくつぶやいたブラックジョークがきっかけで、社会的地位と職を失った――女性の話が出ている。

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち (光文社新書)

社会問題を瞬時に取り入れる点が映画らしいと思うし、映画も“メディア”に関わる分野である以上、ネット私刑(炎上)は現代の身近な問題なのかも知れない。

自己肯定感が低い人達

そんなグロリアの周りには、白馬の王子、騎士のように、助力をしてくれるスポンサーのような男性が現れる。
だが、実際は違った。

ティムはグロリアを「自分の助けがないと何もできないダメ女」と見下しており、それによって優越感を感じていた。
そのため、自分がいないことで彼女か自活し、自立し始めたしだことに焦りを覚え始める。
おそらく彼は対等な人間関係を築こうとしていなかった。

オスカーはグロリアが気付き指摘するように、自己嫌悪の裏返しとして関わっている。懐柔、支配という形で。

他にもオスカーの男友達がいるが、ガースは薬物・アルコール依存症のようだったし、好青年・ジョエルはオスカーに何も言えない男だった。

そんなグロリアの交際関係に『だめんず・うぉ~か~』『母がしんどい』に出てくるダメ男と、それにひっかかってしまう女性(著者)の姿が被る。
だめんず・うぉ~か~ (1) (SPA! comics)母がしんどい

今年出版された『酔うと化け物になる父がつらい』でも、アルコール依存症の父を持ち、生きづらさを抱えた著者が、やはりだめんずに引っかかり、訣別する話だった。
酔うと化け物になる父がつらい(書籍扱いコミックス)
だめんずに引っかかる女性がアダルトチルドレン傾向があること――そもそもアダルトチルドレンとは、アルコール依存症の親の家庭で育った子供が“生きづらさ”すなわち低い自己肯定感を抱え、更には同じ轍や別の依存症、DVなどを起こしやすい家庭を作る傾向があること、幸福感のある家庭を築きにくいこと――を考え合わせると、辻褄が合うように思える。

グロリアの家族関係の問題があるという描写は無い。
だが、依存症など後天的精神疾患は、家族関係(本人の気質もあるが)の問題に起因することが、最近指摘されている。
それに彼女は都会から故郷に逃げ帰ってくるが、温かく受け止めてくれる家族の姿は皆無だった。

だめんずのオスカーも実は例外ではなく、物に溢れた汚部屋――これも劣等感の現れ――の中で、家族に関するコンプレックスがあることを垣間見せるものがあった。

グロリアは彼女の分身である怪獣が大暴れした様をニュース映像を通して客観的に見たことで、自戒し、お酒を断つ。
更には緯度の反対側にまで行って、だめんずとの訣別となる。
が、その描写は雑ではないか?

上記、関連しそうな内容のコミックエッセイとこの映画に足りないのは、それをどう克服してゆくかというカウンセリング面の描写だと思う。
怪獣はフィクションなので何でもありといってしまえばそこまでだが、リアリティと絡めてここまで描いてくれたのだから、もう一押し欲しかった。
厄介なことに、依存症を克服することは現実には困難を極める。

何故なら、どこの国にも酒はある。
依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実』が指摘するように、依存症は前述の個人の精神的な問題にとどまらず「入手しやすさ」が一因になっているのも事実だろう。
世界はアルコール依存症という怪獣を生み出しやすい構造社会と言える。
依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実
エンディングで「あちゃー」と顔をしかめるグロリア。彼女はアルコール依存症を克服することができるのか⁉

それにしてもグロリアことアン・ハサウェイ。
大きな瞳をくりくり動かして、 顔芸を披露していた。
とても可愛い。


この間は民放で『シン・ゴジラ』地上波初放送だったし、ゴジラシリーズ初のアニメ作品『GODZILLA 怪獣惑星』が公開された。
昨年から引き続き、怪獣映画がアツい。

ちょっとアニゴジ観てくる!
映画『シンクロナイズドモンスター』前売り特典、チラシ、蒲田

  1. 『パシフィック・リム』製作費$190,000,000(https://ja.wikipedia.org/wiki/パシフィック・リム_(映画))
    『シンクロナイズドモンスター』製作費$15,000,000(https://ja.wikipedia.org/wiki/シンクロナイズドモンスター)
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