映画『ジェーン・ドゥの解剖』感想

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ジェーン・ドウの解剖 [DVD]

公式サイト:
http://janedoe.jp/

本来、真相への手掛かりを掴むためのポジションである検死解剖が、事件の真相“そのもの”に繋がる。それが斬新だった。
解剖して死因を究明する「だけ」のはずが、目の前にある死体が霊障の原因で、事件に巻き込まれてしまうという皮肉も。

解釈が何重にも入れ子になっていて、真相にたどり着いても真意にはたどり着けない。
素晴らしき密室ホラーサスペンスだった。

物語は不可解な殺人?事件現場の地下で、身元不明の女性の遺体(ジェーン・ドゥ)が発見され、地元の葬儀屋に検死依頼と遺体が運び込まれることから始まる。

❗❗以下、ネタバレあり❗❗

解剖

今まで見たサスペンス系の映画で、検視解剖のシーンはあっても、その手順や目的について解説したものはなかった。
実際の職業でなければ知る機会もないであろうと思っていたので、驚いた。
同時に、知的好奇心を刺激される。

普段、知ることがない検死解剖の手順。
「あくまで死因を突き止めるのが検死解剖であり、推測で判断してはいけない」と監察医の父親は語る。
そうした台詞に従事する人のプロとしての意識を垣間見る。

しかし、あまりにも不可解な遺体、不自然な状態に、死因を特定することができず、次第に死因の解明という推理へとシフトしてゆく。

推理

解剖という、身体の中を開けて死因を知ろうとする行為が、事件の真相を暴こうとする行為と深く結びついている。

“真実”を暴く“時”の格言の如く、時間の経過とともに進む解剖が真実を暴こうとするのだが、
解剖が進むほど、周りで霊障がひどくなる。まるでパンドラの壺(箱)を開けてしまったかのように。

爪に付着していた土や布に記述されていた記録などから、彼女はセイラム魔女裁判(※1)の犠牲者だったことが判明する。

美しい死体

映画『エイリアン:コヴェナンド』のショウ博士然り。ムラージュのイメージだった。
一瞬、眠っているかと見紛うような艶っぽさ。白い肌や滑らかな肢体の美しさに色を添えるような血の赤に……それを開いて中を見る、好奇心を満たすような行為に陶酔するような……言葉は悪いが、一種の征服欲のようなものを匂わせる。それは同時に危うさ、破滅の雰囲気もある。

美しい容姿……外皮は、生前のそれであると同時に、彼女が受けた、魔術?のような凄惨な拷問を包み隠すものだった。
皮を剥いで真実を暴くと同時に、噴出する悪意。

真相にたどり着ければ霊障が収まるのではないかと考えていた父子だが、むしろ悪化する。
セイラム事件の凄惨な歴史と犠牲者の無念に思いを馳せ(これはあらゆる事件に巻き込まれた犠牲者を検死する医師たちが一度は抱える思いかもしれない)、赦しを懇願する父親の犠牲も虚しく、息子も死んでしまう。

ジェーン・ドゥは憎悪しているのだろうか?
それが彼女の意識なのかは判断できない。

私には魔女裁判で魔女を封じて悪魔を退けようとして、魔女を生み出してしまったように思えた。

一夜明け、検死解剖を行った葬儀屋では、警察官らによって現場検証が行われていた。
ラジオで言われていた嵐があった形跡はなく、死体が歩いた形跡もない。だが、映画の冒頭にあった前日の事件現場と似た雰囲気――脱出を試みた形跡――がある。

地域の安全を守る保安官の伝統か。
賢明な保安官は、手に終えないと悟ったジェーン・ドゥを他の地域の大病院に送る。
その救急車の中で、彼女の足に括りつけられた鈴の音がする。――霊障は既に始まっていた。

音楽

霊障が起こるとラジオから流れてくる素朴な歌。次第に不安の代名詞、霊障の象徴になる。
冒頭で流れる耳障りなロックがかえって恋しくなるというか、元気をくれるものにすり替わっていた……

この子供たちの楽しげな歌は"Open Up Your Heart"という、ジャズだった(1955)。(※2)
ジェーン・ドゥと同時代(1692)の曲ではないのか……

本来は楽しい曲のはずなのに、不気味な雰囲気にしてしまう……
映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で使徒と識別された参号機解体に〈今日の日はさようなら〉が使われた時の戦慄を思い出す。

魔法陣

ジェーン・ドゥがのみ込んでいた、自身の歯をくるんでいた布に描かれていた魔法陣。
一瞬、 ソロモン英霊72柱の紋章にありそうな図紋だと思っていたが、それはソロモンの大鍵。魔除けのひとつだった。(※3)

しかし何故、彼女の歯が抜かれ魔法陣を描いた布に包まれ、飲み込ませてあったのか……
父親は彼女が受けた処遇を「拷問」と言っていた。
だが……手足の骨を折るというのは拷問というより、死者の復活を妨げるための儀式だったように、私は記憶している。墓から這い出てこないようにするために。例の布も死後の復活を妨げるまじないだった可能性がある。

幻覚

映画『Oculusのような幻覚作用による怪異は最近のホラー映画のトレンドなのだろうか?
ポルターガイストをはじめとする具体的な霊障ではなく、当事者(巻き込まれた人々)しかわからない状態。

セイラムの事件での少女たちの奇行には幻覚、すなわち“当人しかわからない現象”もあったようだ。(※4)それを踏まえているかもしれない。

真相の解釈

生来から魔女であったか、無実の女性であったか……多様な解釈ができる仕立てだった。ジェーン・ドゥ(名無しの権兵衛)が何者か分からないのと同様に。

私はセイラムの魔女裁判が、無実の人々が犠牲になったという前提で鑑賞したため、ジェーン・ドゥも犠牲者であり魔女(悪意の塊)となってしまった、と考えていた。
字幕版を鑑賞したのだが、字幕では父親の発言に「無実」という字幕が充てられていた。

しかし、他の人の感想などを拝見すると、彼女は元々魔女であった、と考える人もいる模様。
最近のハリウッドホラーでは、結局親玉が古代の悪魔だったりする傾向が多いので、その文脈もありうるだろう。
記録に残っていない、セイラム魔女裁判の真犯人――魔女であり悪魔――で、秘密裏に葬られ遠く離れた地に埋められていたものが、時が経ち冒頭の事件があった家で誤って掘り起こされてしまった、という……

どちらかは作中で明言されず、判然もしない。
観る人によって判断が分かれる、判断を委ねられている、なかなかの良作だった。

  1. セイラム魔女裁判
    https://ja.wikipedia.org/wiki/セイラム魔女裁判
  2. McGuire Sisters- Open Up Your Heart And Let The Sun Shine In
    https://www.youtube.com/watch?v=GTGq3lnR14o
  3. ジェーンドゥの解剖 感想と解説 – シエスタ
    http://occulticsiesta.hateblo.jp/entry/2018/02/07/ジェーンドゥの解剖_感想と解説
  4. 魔女狩りで19人が処刑された「セイラム魔女裁判」の原因は幻覚剤「LSD」かもしれない
    https://gigazine.net/news/20151030-salem-witch-trials-lsd/
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