映画『エイリアン:コヴェナント』感想

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映画『エイリアン:コヴェナント』チラシ2
公式サイト:
http://www.foxmovies-jp.com/alien/

!問答無用でネタバレあり!
……というより、映画を観ていないと、ここに書いてあることが伝わりにくいかも汗


第1作目『エイリアン』の原点に立ち返るようなパニックアクションだった。

今回の登場人物たちはフェイスハガーやその原因を客観的に目撃した人間がいないので、突然体調を崩した人間の体内から、凶暴なものが現れる。
何処に潜んでいるのかわからない、何故襲われるかもわからない。

最善は、それに遭遇したらにげること――
エイリアンが何物かよく知らないで下手に武器を手にして対抗すると、余計に自身に危害が及ぶ。

勿論、全てが『エイリアン』の焼き直しではく、新しいデザインの外郭に覆われていない白く生々しいネオモーフに、黒いいつもデザイン(ゼノモーフ?)のエイリアンまで。
エイリアンが知性のある生き物であることは分かっていたが、今回は頭を使うようになって、頭突きで強化ガラスを割ろうとしていた。

前作『プロメテウス』以上に後味の悪いエンディング――前作からのアンドロイド・デヴィッドの罠にかかってしまった事――は、エイリアンが誕生する絶望よりもはるかに絶望的な臭いがする。

死の芸術

この映画で一番印象的だったのは、その芸術的な空間描写だった。

ギーガーのドキュメンタリー映画『DARK STAR』を観たので、ギーガーの死を意識させる作風が、『エイリアン』に相応しいことを理解する。ギーガーの急逝で、どうなるのかと思っていた。

今回は美術史におけるメメント・モリを強く意識させられた。

  • ディヴィットがショウ博士を埋葬したという場所は、明らかにベックリン《死の島》(※1)。
  • ディヴィットの研究施設はヴンダーカンマー(驚異の部屋)を彷彿させる。
    この世界を丸ごと捉えようとしたルネサンス的な一切智、万能主義のあり方を示したこの部屋は、同時に世界の全てをその手中に収めんとする野心の現れでもあった。(※2)

    愉悦の蒐集 ヴンダーカンマーの謎 (集英社新書ヴィジュアル版)

  • 元の“エンジニア”の用途は不明だがディヴィットが描いた巻物が積まれた書庫は古代ギリシア、ローマの図書室だろう。
    外の広場に転がる“エンジニア”の遺体の姿が、ポンペイの遺跡の石膏型を連想させて、そのイメージを強固にする。
  • ショウ博士は“エンジニア”の惑星へ向かう途中のコールドスリープ中に実験体にされ、その遺体はムラージュ(※3)か剥製(死蝋化?)にされていた。
    アナトミカル・ヴィーナス 解剖学の美しき人体模型
  • ショウ博士の墓で供えられた花はまるで鬼灯のよう。花の形は子宮のようだが堕胎のイメージにも結び付くし、それは前作『プロメテウス』でのことも暗示させる。……彼女の遺体の細胞が後のエイリアンエッグの材料となったのなら、デヴィッドはそれも踏まえて居るのだろうか?

『エイリアン』はSFだが、ディティールは新しさよりも懐古趣味に満ちている。
それが過去の遺物として“死”を連想させるのかも知れない。

デヴィッドの名前の由来からも、聖書的な図像解釈は避けられない。
コヴェナント』公開前の公式ツイッターには、聖書の暗号を込めた数字がツイートされていた(※4)ようだし……
映画全編を通して、そういうディティールに満ちている。

違約

映画タイトル「コヴェナント」の意味は“聖約”。
侵しがたいイメージに反して、映画の中では入れ子のように様々な“約束”が違える。
映画冒頭で、ダニエルズと船長の「湖畔に小屋を作る」ことが船長の死によって違えるのをはじめとし、人類移住計画のための惑星・オリガエ6への旅路は死の惑星への寄港により、クルーの殆どを失う。
前作からの延長として、ディヴィットはショウ博士の「エンジニアは何故人類を滅ぼそうとしたのか?」の解答を得させず、ショウ博士の遺骸は墓にも納められず、実験体にしていた。

そして冒頭の「湖畔の小屋」のキーワードが、エピローグでアントロイドがウォルターではなくディヴィットであることを確定させ、“違約”の不吉さを決定的にする。
コヴェナント号は植民計画を遂行できず、ウォルターの研究・実験場と化し、コールドスリープ中の男女約2000人と人間の胚がエイリアンの宿主となるのだろう(クィーン・エイリアン誕生の布石か?)。

人間そしてアンドロイドの誤解、勝手な解釈によって、“聖約”はどんどんかけ離れたものとなった。
それはまるで、聖書に書かれた神との契約が人間の勝手な解釈で本来の意味を見失われ、失われていく過程に即しているように思えた。

デヴィット / ウォルター

前作からのアンドロイド・デヴィッドとその後継機であるウォルター、同じ顔(デザイン)で兄弟のような2体は、やはり意図的に関係があったのではないだろうか?
デヴィッドとウォルターが繋がっていた、という意味ではない。

ウォルターという名前は古語ゲルマン語の“支配”に由来し(※5)、デヴィッドはダビデ像――神の寵を賜り、羊飼いから身を起こした古代イスラエルの王――に由来する。

古代イスラエルの初代王・サウルが神の寵を失いダビデが王になるように、ウォルターに替わってデヴィッドがコヴェナント号を支配できるのは、初めから仕組まれていたのではないかと……

“My name is Ozymandias, King of Kings;
Look on my Works, ye Mighty, and despair!"
Nothing beside remains. Round the decay
Of that colossal Wreck, boundless and bare
The lone and level sands stretch far away.

「我が名はオジマンディアス 王の中の王
全能の神よ我が業をみよ そして絶望せよ」
ほかには何も残っていない
この巨大な遺跡のまわりには
果てしない砂漠が広がっているだけだ

オジマンディアス OZYMANDIAS :シェリー
http://poetry.hix05.com/Shelley/shelley02.ozymandias.html (2017/10/9 確認)

バイロンの詩と引用したデヴィッドに対し、その詩の作者がシェリーであることをウォルターが指摘する。
この時既にデヴィッドは思い込みによって解釈を誤っていることを、示唆しているのだろう。
絶対者として意のままに他を圧し、破壊と絶望を謳うようなニュアンスで詩を諳んじているが、意味は違うのかも知れない。

コヴェナント号を掌握したデヴィッドは、2000人の男女が眠るコールドスリープの部屋に、ワーグナーの曲〈ヴァルハラ入城〉を聞きながら入室する。
ニーベルンゲンの指環』第1夜『ラインの黄金』の締め括りに流れるこの曲は、意気揚々と入城する神々の最後尾にローゲ(神々に破滅をもたらす北欧神話のロキ)が入る。そして本来あるべき黄金を奪われ涙する三人の泉の乙女の哀歌が重なっている。
そしてこの曲は第4夜『神々の黄昏』のヴァルハラ炎上を暗示させる。

即ち、破滅。

旧約聖書において、ダビデ王――デヴィッドの名前の由来、ダビデ像――は様々な改革を成すも、それが神の国だったバビロンをダビデ(人間)の国としてしまい、神の寵――自身の権威――を失う。それ故にバビロンは滅んだという解釈をする。

デヴィッドは数多くの“違約”をした。そのためデヴィッドにも破滅が訪れるのではないだろうか?


エイリアンの謎が深まってしまった……

コヴェナントのエンディングからリプリーの時間軸までは20年。もうワンクッションある模様。
一作目の巨人・エンジニアの遺骸はミイラ化していたように思える。ならば“エンジニア”の種族は何処かで健在なのだろうか?
あるいは……デヴィッドが行っている“創造”――エイリアンの創造――は、所詮“エンジニア”の二番煎じに過ぎないという象徴なのか?『プロメテウス』のエンディングもあるし……

コールドスリープの部屋の扉を閉めるときデヴィットのコードが有効で、コヴェナント号の一連の事件はウェイランド社によって仕組まれたものではないかと邪推してしまう。
ウェイランド社とエイリアンの関係の謎は深まるばかり……
映画『エイリアン:コヴェナント』チラシ1
プロメテウス』を観た後、私はショウ博士とデヴィッドが向かうところは“死後世界”だと考えていた。(※6)
ショウ博士たちがエンジニアの惑星にたどり着いても、既に全てが死に絶えているものと……
そしてその遺跡から人類を滅ぼそうとした理由(それが例えば『プロメテウス』冒頭で黒い水を煽った“エンジニア”が何かの罪人で、その贖罪のために人類は生まれた、とか※7)が分かってから、デヴィッドが暴走するとか、エイリアンの卵を発見してしまう……などと想像していた。

しかし”エンジニア”達の死はディヴィットによってもたらされてしまった……
プロメテウス』の冒頭、ショウ博士が夢で“死後世界”について父と話していたことを回想していた。
コヴェナント』で死の後にあった世界――それは現世の苦しみを癒す天国でも、行いについて裁かれる地獄でもなく、ただ暗い死だった。

“エンジニア”による人類創造の理由は失われ、エイリアンと人類の関係とは人間の被造物・アンドロイドの違約によって生まれたもの、ということが‘人類とエイリアンの関係’なのだろうか?

  1. 【完全解説】アルノルト・ベックリン「死の島」 山田視覚芸術研究室[近現代美術の基礎知識]
    https://www.ggccaatt.net/arnold-böcklin/ (2017/10/9 確認)
  2.  丁度、アルチンボルド展を観た後だったので、このラボがヴンダーカンマーの様相をしている理由が、デヴィッドのの野心――生命創造の探求心にある、その世界を掌握したような、全能感――があることを見出す。
  3. 16世紀ルネッサンス時代のイタリアで作られた、解剖した遺体を型どりした蝋の模型。ムラージュ(Wikipedia, 日本語)
    https://ja.wikipedia.org/wiki/ムラージュ (2017/10/9 確認)
  4. 徹底考察!『エイリアン: コヴェナント』解読記 ─ 謎の数字、聖書のストロングナンバーに置き換えると…? | THE RIVER
    https://theriver.jp/alien-covenant-code/ (2017/10/9 確認)
  5. Walter/さらに怪しい人名辞典
    http://www2u.biglobe.ne.jp/~simone/more/pan_nz/walter.htm (2017/10/9 確認)
  6.  【過去日記】映画『プロメテウス』考察――“信じる”という人間性
  7.  【過去日記】映画『プロメテウス』考察――神話における巨人の人類創生と人間が失った神性
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