スペイン国立バレエ団 2018年日本公演~創立40周年記念公演~
公式サイト:
https://www.spain-ballet.com/
3年ぶりの来日公演。
前回見逃したので、楽しみだった。
本当はプログラム両方とも見るべきだったのだろうけど……都合が合わず断念。
鑑賞したのはBプログラム。初心者でもわかりやすい“スペインらしさ”溢れる構成だった。
バレエにフラメンコの要素を取り入れたもの、と端的に言っていいだろうか。
私はフラメンコとバレエの重心が異なる方向――前者は下方へ、後者は上方――に向かうので、相反すると思っていたが、今回の公演を見て、それらは対立するものではなかった。
そもそもフラメンコでもバレエの要素を取り入れているものがある。シェネ(※1)とか。
《カンティーニャス・デ・コルドバ》(「サグアン」より)はフラメンコらしい衣装、動きで、男女の駆け引きの物語を描き、
次の《ビバ・ナバーラ》はフラメンコの源流のひとつと言われるホタ(※2)をオーケストラと共に、パリージョ(フラメンコで使われるカスタネット)が乱れの無い美しい音を奏でていた。指が腱鞘炎になりそうだと思う、力強い音とスピードに圧倒されてしまう。
曲全ての感想を書くには私の力は至らないので、特に気に入った2曲、《ボレロ》と《セビリア組曲》内“マエストランサ”について、感想を書きたいと思う。
《ボレロ》
一番見ごたえがあったような気がする…馴染みのある、覚えやすい曲であるためか。
バレエのために作曲された曲。東急ジルベスターコンサート 2015-2016で引退するシルヴィ・ギエムが舞い、『銀河英雄伝説』の艦隊戦のシーンでも使われた曲。
同じリズムで一定の旋律を繰り返す構成、徐々に楽器編成が増えてゆくことで倍音の効果を取り入れたものだという。(※3)
元々、スペイン舞曲から着想を得たものだったことを、今回初めて知った。
ボレロの3拍子にフラメンコのサパテアード(足)の3連が入る。決してずれない。
映画『ラ・チャナ』でも語られていた、フラメンコのコンパスの重要性が遺憾なく発揮されていた。
サパテアードとアバニコ(扇子)を使った音が合わさり倍音となり、《ボレロ》は次第に力強くなってゆく。
休憩を挟んで、後半は《セビリア組曲》。今回は新バージョンだったようだ。
‘日本人にはあまり馴染みのない聖週間にまつわる場面を除いた(※4)’との事……私はそのシーンを見たかった……
映画『フラメンコ・フラメンコ』で9番目の群舞のようなものだったのだろうか……映画では長いヴェールを被り舞う姿は、まるで異界のような、神聖で静謐な世界だった。舞い終わった時に静かに十字を切る姿がとても印象的だった。
《セビリア組曲》“マエストランサ”
雄牛と闘牛士……本来、男の戦いである闘牛は、女(雄牛)と男(闘牛士)の駆け引きのようになっていた。
「牛は闘牛士にとって、敵ではなく協力者だ。ひとつのアートを実現するための協力者」という闘牛士マノロ・バスケスの言葉を思い出していた。
雄牛=女性の表現が興味深かった。
両の上腕を肩まで掲げ、両肘を90度曲げて雄牛の角と見立てている。
その腕を掲げた状態で、頭から闘牛士に突進して――挑んで――ゆく。
雄牛=女性の黒いボディスーツには、赤い血の刺繍があしらわれている。
それは雄牛=女性の決定的な死別、敗北に思えた。(現実の闘牛でも雄牛は斃される存在であり、闘牛士以上にその死は確定的なため※5)
同時に、死別を額面通りの“死”と捉えるのではなく、“男女の別れ”やその後の“忘れられなさ”“未練”といったもの、心の傷を彷彿させる。フラメンコのソレア(※6)に通じているようにも思えた。
他、民族的なアイデンティティを強く打ち出した演目だった。
スペインと言えば情熱的なイメージが容易に想像できる男女の駆け引きといったもの。そして南スペイン――イスラームの文化の影響を色濃く受けたムデーハル様式の意匠など――の雰囲気が鑑賞者をその世界に誘う。魅せられる。
バレエなのでとても軽やかに思えた。しかしフラメンコの要素を取り入れているためか、そちらに学ぶものがとても多かった。
私はそれにただ圧倒されていた。
- シェネのやり方や意味、うまく回るコツを調べてみました。
https://ballet-ambre.com/chaies/ (2018/12/24確認) - ホタ・アラゴネサ(Jota Aragonesa): 北スペインのアラゴンが発祥の地。速いテンポと手を高く上げカスタネットをたたきながらカップルで踊るのが特徴。スペイン舞踊史
https://www.enforex.com/japanese/culture/spanish-dance-history.html (2018/12/24確認)映画『J : ビヨンド・フラメンコ』公式サイト
http://j-beyond-flamenco.com/ (2018/12/24確認) - ボレロ (ラヴェル)(Wikipedia / 日本語)
https://ja.wikipedia.org/wiki/ボレロ_(ラヴェル) (2018/12/24確認) - 『スペイン国立バレエ団 2018年日本公演〜創立40周年記念公演~』プログラム p.26
- 闘牛とは人間vs雄牛の殺し合いではなく、屠殺の延長としてみている。闘牛士はその解釈を否定するが、歴史を調べるとその一環であることが色濃い。牛は人間が食べるために屠殺されるが、人間はそれを戦っているように見立てていると解釈している。【過去日記】闘牛批判考
- SOLEA ソレア フラメンコ曲種解説|フラメンコガイド|フラメンコのイベリア
https://www.iberia-j.com/guia/solea.php (2018/12/24確認)