クエイ兄弟 ―ファントム・ミュージアム―
公式サイト:
http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/exhibitions/2016/quaybrothers/(2016/10/23確認)
終わってしまった展覧会だけど……やっぱり書いておこう。
書店で公式図録を拝見して、コラージュ教室でご一緒だった方から薦められ、遅ればせながら足を運ぶ。
過去の展覧会でシュヴァンクマイエルをはじめとする、チェコアニメを取り上げた葉山館。
この展覧会はその延長のようだった。
【過去日記】東欧アニメをめぐる旅 ポーランド・チェコ・クロアチア
シュヴァンクマイエルの影響を受けたという双子の作風は、東欧的な閉塞感とアンティーク感に溢れていた。
それでも東欧と異なり、ガラクタのキモさを抑え、ちょっと洗練させていた。
映画 / Films
会場では映画作品の一部を上映。その側に、撮影に使われたジオラマが展示。
映画の“本物”があることに感動する。
髪と登頂部が無い、頭からっぽの人形は、まるでドクロのよう。
また、からっぽな分“入れることができる”こと、観るものに感情移入させる余地を持たせていた。
作品によっては眼球も無かったが、“目は心の窓”と言われる分、それが無いことも、前述を強化する。
アンティークの品々、特にハサミへの関心を高く感じる。
裁縫のイメージから来る、クリエイティビリティの想起だろうか。
裁つ(解体する)ためのハサミ。
パーツを縫う(結合する)糸と、そのための針。
服を裁つように人形のパーツが解体され、別のものと結合する。
先程と違う何かに変容する様が錬金術のようでもある。
ハサミという、閉じられている限りは安全だが、開くと刃があり傷付ける能力を有する緊張感。
ストップモーションによる独特な動き――
コマ撮りで無機物を動かす手法は、CGが発達した現代では、不自然さよりも素朴さと物質のリアリティの方が際立って見えた。
クエイ兄弟の作品の魅力は「不安感」だった。
映像にはホラー映画的手法が用いられている点からもうかがえた。
暗い画面、影、店舗が早く無機質で単純な音階……
不安感――ふと、抑圧された子供のイメージを見出す。
それは人形というアイテムだけでなく、アンティークにみる懐古趣味が“過去の思い出”を象徴すると思ったからだ。
箱の中の世界は、閉塞的で奥深い。
私が閉鎖した箱世界の中で展開される小宇宙のイメージを意識させられ、それが美しいと思ったのは、ターセム監督の映画『ザ・セル』だったが……ターセム監督は影響を受けたのかも知れない。
ぎこちなく水平方向に動くカメラワーク、接写、人形世界――共通点がある。
会場で上映されていた、《ストリート・オブ・クロコダイル(“Street of Crocodiles [1986]")》が、そのイメージの原泉だろう。
薄汚れたガラスケースからも、それが伺える。
ターセム監督は現代アート愛好家であることを公言していた。有名な馬の輪切りシーンは、デミアン・ハーストのホルマリン漬け作品のオマージュ(※1)だし。影響を受けていたと思う。(※2)
箱の中の世界――それはコレクションボックス、標本箱を想起させられる。
それに沿うような、博物学的な世界観の映像もあった。
この展覧会と同じタイトルの"Phantom Museum"という映像には、古い解剖学人形や、頭に穴をあけるための手術器具などの資料映像が淡々と流れる。
日本では滅多に見られないコレクションに、興味をそそられる。医学的な意味合いのあるそれらは奇想の美に見えた。
ミュージックビデオ & コマーシャル / Music Videos & Commercials
映画作品だけでなく、短編作品――CMや映像会社などのロゴも上映。
フランスの天然炭酸水バドワ(BADOIT)のCMでは、ストップモーションで動くシマウマとライオンの人形がサバンナで優雅に食事(二頭の間を取り持つのがバドワ)したりとコミカルなものまであった。
“The Calligrapher, Parts Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ"
カリグラフィーで描かれた紳士が、天井から突き出ているペン先をとり、それで紙面に直線を引く。すると“パララッ”と羽ペンを持った手が増える。
それらがスラスラと紙に翼を描く。それは本物の青い羽根になり、紳士はそれをおもむろに頭に挿す。すると天井の空いた穴からペン先が突き出てくる――そして1コマ目に戻るという、無限ループ。
他にも映画のためのイメージイラスト、演劇のポスターに、舞台芸術(そのときの舞台写真、イメージイラスト、ミニチュア)まで……!
コラージュで構成されたチラシは、映像作品に見る解体され再構築された毒気よりも、サスペンス性が強い印象を受けた。
それとは別に、前述の動画とも絡むが、カリグラフィーの美しさに惹かれる。
今はパソコンで様々な欧文フォントが無料で手に入ってしまうが、手書きの自由さには叶わない……
デジタルに慣れてしまって、そうしたものが斬新――むしろ技巧を凝らした美しいものに見えるようになった。
舞台芸術は、映像作品の箱世界そのままに、東欧の幻想的な閉塞感があった。
フランツ・カフカの小説のような雰囲気だった。
最終日に駆け込みで行ったので、もうちょっと堪能したかった……
《鹿 / デコール(中央部)「粉末化した鹿の精液」の匂いを嗅いでください》
最後に展示されていた作品のみ、撮影OKとの事だったので、激写(違)
それは今年の夏にお二人が来日されていた時、デモンストレーションで描かれた作品だった。
麝香の事を指しているのだろうか……?
葉山の自然と絡んで、繋がりがあるようにも思った。そもそも葉山に鹿がいるのか、あの鹿の角は現地調達なのか、私には知る由もないけど……
ダリ展と北川先生の個展に続いての、シュールな世界観に堪能する。
それらに展示されていた作品群に共通することは、緊張、閉塞、不安だろうか……
私は何故、それらに魅かれるのだろうか。
丁度読んでいた本に、アートの何たるかを簡潔に表している文章があり、それがこれらを堪能する動機を簡潔に示していると思う。
現代アートに限らず、アートがもたらすべきものは強さです。この強さはいろいろなやり方で表現できます。楽しさ、悲しみ、何でもいいのです。その強さで、私たちは世界と私たち自身の関係を新しくすることができ、突如として、ほかの誰かの眼鏡で物事を見られるようになる。
ダニエル・グラネ『巨大化する現代アートビジネス』(p.297)
映像作品とその関連する資料のみでなく、ポスター、チラシ、独自に作った紙媒体など展示されている数も多かった。
薦めて下さった方がおっしゃっていた通り、コラージュのインスピレーションとしても刺激を受けるし、シュヴァンクマイエル的な世界観も私好みで大満足した展覧会だった。
DVDやBlu-rayも多数出ているので、機会があったらまた見たい。
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Damien Hirst “Some Comfort Gained from the Acceptance of the Inherent Lies in Everything"
http://www.damienhirst.com/some-comfort-gained-from-the-a (2016/10/23確認)“The Cell (1/5) Movie CLIP – Boy With a Horse (2000) HD"
https://youtu.be/RNP4caHnknA (2016/10/23確認) -
ちょっと調べると、ターセム監督の映像にクエイ兄弟を見いだす人がいらっしゃった。
春巻まやや『落下の王国 |春巻雑記帳』 http://springroll.exblog.jp/9529296 (2016/10/23確認)
ヒロインの少女が病院で治療を受けるシーンが人形劇で象徴化され、その中で頭から紙の巻物を引き出す描写がある。
“The Fall – animated dreamsequence" https://youtu.be/_4EK0thCDYg (2016/10/23確認)【過去日記】落下の王国