株式会社カラー10周年記念展
公式サイト:
http://www.khara.co.jp/khara_10th/
ラフォーレミュージアム原宿( http://www.laforet.ne.jp/museum/ )にて。
~2016/11/30まで。
『エヴァンゲリオン劇場版』公開から10年後、新劇場版の話が話題になり、それからまた10年が経とうとしている、時に、2016年――
『ヱヴァンゲリオン新劇場版』を製作しているスタジオカラーが10周年を迎えていた。
見に行けなかった『特撮博物館』(※1)のミニ版、百貨店の催事場で行われた『エヴァンゲリオン展』(※2)の延長といった感じだった。
展示物の主な内容は『序』『破』『Q』の画コンテ、イメージボード、『シン・ゴジラ』の模型まで。
それ以外に、『ウルトラマン』『宇宙戦艦ヤマト(以下、ヤマト)』など、過去のアニメーションアーカイブ、『日本アニメ(ーター)見本市』(※3)で上映された作品についての資料群など。
画コンテの展示は、はまるで一枚の絵画のために画家が何枚も描いた習作を拝見するような、制作工程を知るための資料のようだと思った。
シーンの画コンテとそこにメモ書きされた内容に、製作に携わる人達がいかにしてイメージを共有しようとしているかを垣間見る。
セル画の頃は、絵画のように手彩色のフィルムという物体を展示することができるが、現在のアニメーションはCG彩色が主流なので、物理的なカラー作品(を完成した一枚絵と見なすならば)の展示物が少なかった。そうしたものはイメージボードや貞本義行氏によるキャラクターイラストだった。
もちろん完成物は動画なので、会場でそれを流すことが主体となる。
アニメを美術館でどのように展示するか――先日の『クエイ兄弟 ―ファントム・ミュージアム―』『東欧アニメをめぐる旅 ポーランド・チェコ・クロアチア』など、神奈川県立近代美術館・葉山館で行われた過去の展覧会と比較してしまう。
手彩色が主流だった1990年代までの物理的なものがなくなってしまった分、ちょっとさみしくなったと思った。
しかし画コンテは、上映中は暗い画面上で見えづらかった文様の細部を確認できる良い機会だった。
「セフィロトの樹」がフラクタル構造になって広がっている文様には、物語について何か表しているのではないかと邪推してしまう……
集約して1つの到達点に至る形の「セフィロトの樹」が、同じ形を繰り返しながら別の到達点に至るようになっている。
まるで押井守監督の映画『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の最終戦の時のような、進化の系統樹(※4)を暗示しているのではないかと……
第8の使徒のイメージボード画面下部にはフランス語の一節が書かれている。
“Il est la mort luy mesme, et n’y a rien au Monde Qui face tant mourir le Monde, que le Monde"(※5)
それは死そのものであり、世界には何物もない、そんな世界(意訳、亜綺羅)
ルネサンス期のフランス・カトリック教会音楽、おそらく詩篇からの出典とおぼしき歌詞は、死を怖れおののくものなのだろうか?
終末思想を描いた古典絵画を意識した描画だった。
言わずもがな、今年大きく話題になった映画『シン・ゴジラ』のゴジラ第二形態~第四形態までのフィギュアが展示。
俗称・蒲田のあいつは、初見の意思疏通ができない不気味さ――死んだ魚のような目だと思った――は、もはや私のなかでも“キモカワ”になってしまった。
会場では来場者特典として、10周年を記念して制作された88ページにわたる豪華冊子の配付があった。
安野モヨコ氏による描き下ろし漫画『よい子のれきしえほん おおきなカブ(株)』など収録。
これは会場でアニメーション化されて上映していた。
10年の軌跡を人間関係の広がりを、ロシア民話『おおきなかぶ』に準えたもの。
『Q』という大きなカブ(作品)を作り引っこ抜いた時、カブの下敷きになり(鬱病)、ちょっと元気になって畑(スタジオカラー)に戻って来たと思ったら、隣の畑で『シン・ゴジラ』という大きな赤カブを作っている描写にクスッとしてしまった。
もう見れないと思っていた巨神兵を拝見できて、感無量。
等身大の巨神兵は、後ろから人が動かすマペット(※6)だった。
ブルーバック上で操作し、風景と合成する。
今なら、(元型は作るにしても)データ上で描画しモーションキャプチャーで動かす、フルCGで作りそうなものを、あえてマペットで作ったという巨神兵。(※7)
特撮技術への敬意と、それを“保存する”意図を感じる。
それは同じエリアに展示されているアーカイブ――『ウルトラマン』で使われた飛行形態の人形や戦闘機、『ヤマト』のセル画など庵野氏が影響を受けた作品で、撮影などに実際に使われたものを保存する試みからも見てとれる。
巨神兵と『ウルトラマン』然り、『2001年宇宙の旅』など、『エヴァンゲリオン』は多くの先人の作品から影響を受けてつくられた。
庵野監督も自覚があるように、初代『ゴジラ』の頃のように一から試行錯誤してキャラクターを作る世代ではない。
何故ならクリエイター達がその先人の作品を見て育った世代であり、どうしても影響されるのだ。(※8)
しかし、先人からの影響は芸術――美術史でも見受けられること。
そのなかで画家たちは時代を反映したり、独自性の表現している。そもそも"Art"という言葉の語源自体、“(自然の)模倣”なのだ。(パクリとは違う)
過去から未来へ――
後半のアニメ・特撮アーカイブが、技術とは異なる次世代を育てる試みの一環である。
そして私は、アニメ・マンガは現在サブカルチャーの粋である、それがカルチャーとして定着する――体系づけられる――ための布石になるとも思った。
「次世代を育てる」という技術面の試みは、最後のエリア『日本アニメ(ーター)見本市』のこれまでの作品アーカイブに集約されていた。
実験的で面白い作品がいっぱい(>▽<)
オタク的男性の妄想の塊のような、『ME!ME!ME!』はアイドルな音楽にエロティックでサイケデリックでファム・ファタールな世界観がドラッグのようで素敵だった。
- 館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技 公式サイト
http://www.ntv.co.jp/tokusatsu/ (2016/11/26確認) - エヴァンゲリオン展 公式サイト
http://www.asahi.com/event/evangelion/ (2016/11/26確認) - 日本アニメ(ーター)見本市
http://animatorexpo.com/ (2016/11/26確認) - David Bressan “Ernst Haeckel, Evolution and Japanese Anime" History of Geology, February 16, 2016 (English)
http://historyofgeology.fieldofscience.com/2016/02/ernst-haeckel-evolution-and-japanese.html (2016/11/26確認) - Chansons et Psaumes de la Reforme by Ensemble Clement Janequin (2007-07-10)
track27.Où est la mort ? au Monde, et le Monde ? en la mort.
- https://ja.wikipedia.org/wiki/マペット (Wikipedia) (2016/11/26確認)
- https://ja.wikipedia.org/wiki/巨神兵東京に現わる (Wikipedia) (2016/11/26確認)
- 【参考文献】長山靖生『ゴジラとエヴァンゲリオン (新潮新書)』