北川健次展 吊り下げられた衣裳哲学

白黒イラスト素材【シルエットAC】
JUGEMテーマ:個展

北川健次展 吊り下げられた衣裳哲学
またしても、終わってしまった展覧会だけれど…
ここでの先生の個展は10回目だった。……つまり10周年!!おめでとうございます。

日本橋・高島屋 美術画廊X にて。

https://www.takashimaya.co.jp/nihombashi/departmentstore/topics/detail.html?category=art&id=1081#contents( 2018/10/30 確認 )

AMORE E PSCHE
黒い昆虫標本箱のオブジェ。
アントニオ・カノーヴァ《アモルの接吻で蘇るプシュケ》(※1)の写真を基にしている。
アモルとプシュケの顔をレンズの縁が囲むように配されている。レンズによる額縁効果で二人の関係性が注目される。
L字の金具が箱の縁とレンズに引っ掛かるように配されている。
細いワイヤーと、時計のパーツだろうか…金メッキの金具。
アルファベット・Wが印字されている角丸立方体がオブジェ下部中央に配されている。

アリス・リデルの小さな部屋で Ⅱ
古い三角定規の中央の穴に収まっているように配されている、古い少女の写真。
言わずもがな、大きくなるお菓子を食べて部屋いっぱいになってしまった『不思議の国のアリス』を彷彿させる。
ガラス管から熱で引き延ばされ糸状になった部分は、少女の顔をさらに囲むように伸びている。
青と黄色のパステルの破片。
その色合いからフェルメールのイメージさせられた。

クラリッセのいる室内
写真作品。
雑然とした室内。積み上げられた椅子やアンティークの品々。
フランスのパッサージュで撮ったものだろうか?
ショーウィンドウのガラス越しに撮られた写真は、写り込みがある。
それは他の被写体を損なっておらず、ガラスの奥で積み上げられたアンティークの一部となっている。
まるで亡霊のように重なりながら……

もしかしたら、ノスタルジアこそ、あらゆる芸術の源 泉なのである。

――澁澤龍彦

引用された言葉に、北川先生のコラージュ作品の本質が集約されていた。
アンティークなどの過去の記憶を想起させるもの、古いものにある情景と異国感。

衣装哲学と銘打った作品群は、アンティークな女の衣装や、女性の身体の曲線美を強く意識させるものが多かった。
今回の個展のDMにも使われている。
それは女性的なるものを想起させ、初期の北川健次氏の男性的な作品――アンチュール・ランボーに寄せたもの(※2)――と対あるいは超えたものに思えた。

Das Ewig-Weibliche / Zieht uns hinan
永遠に女性的なるもの われらを引き、昇らせる

ゲーテ『ファウスト』の終幕の合唱は、悪魔との契約を超える愛によって昇華される様を歌っている。それを思い出された。
……北川先生、何か新しい境地を見つけた、足掛かりを得たのだろうか?

Rome―サン・ピエトロの二つの空洞
エルンストのようなコラージュ作品。
建築設計図面に紙輪の円に手を通す手。
聖堂の空間と輪のなかを指し示すような指先が啓示的だった。その手は神のものではないかと思ってしまう。

アンドロギュノスの白い皮膚
二本指をV字に開いた手が、大胆にトリミングされた幼児の姿をした大理石のクピドの写真の腕に添えられている。
クピドの羽は垂直に切れているにもかかわらず、 違和感が無い。

コレクションという行為もまた創造行為である。
作り手と同じく、その表現世界を自らの物とし、
長い時をかけて様々なイメージを紡ぎ出し対話を
していくのは、他ならぬ鑑賞者自身なのである。

10年近く、こうして沢山の作品を拝見させて頂いている。
そうしている内に、北川先生の作品云々だけでなく、先生の作品を通して私の好む傾向が見えるようになった。
私は安定した構図のものが好きなんだな……
シンメトリックであったり、私の中で理解しやすい関連性があるものが。

今回の個展で、私が一番驚いたのは、「嫌いな作品」があったこと。
タイトルがうろ覚えなのだが、《奇数に隠された三姉妹》だった気がする。
「3」と「7」のダイスの後ろに、おそらく三姉妹のアンティーク写真。その前にある青いコーティングされた導線がいびつで、見ていると私はとにかく不安になった。

そういえば先生、今年の8月に作品集を出された模様。
(早く言って欲しかった……)

北川 健次『危うさの角度
危うさの角度

ぜひ手に取ってみたい。
今年の夏、福島で開催されていた個展に出した作品群だろうか。

それにしても…
最近、会期ぎりぎりに行くことが多くて、展覧会の感想を期間内に書けないのが残念だ……

北川健次先生 オフィシャルサイト
http://kenjikitagawa.jp/

  1. 《アモルの接吻で蘇るプシュケ》  | ルーヴル美術館
    http://musee.louvre.fr/oal/psycheJP/psycheJP_acc_ja_JP.html(2018/10/30確認)
  2. 『A・ランボーと私』 | 北川健次オフィシャルサイト/words
    http://kenjikitagawa.jp/user_data/words.php??p=3475(2018/10/30確認)

    【過去日記】北川健次「ランボー頌」

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