バンクシー展 天才か?反逆者か?

白黒イラスト素材【シルエットAC】
JUGEMテーマ:展覧会

バンクシー展
公式サイト:
https://banksyexhibition.jp/

作品解説アプリ:
http://izi.travel/browse/246bd13e-f062-428a-8db8-34f3e3852da6

正体不明の覆面アーティスト・バンクシーの展覧会。ようやく日本で見ることができると感無量…!

作品の性質上、“たった一つの本物”が来ない、そもそも存在しないとも言えるバンクシーの作品。リトグラフやステンシルを用いたストリートアートを再現されたものが展示されていた。


入ってすぐの場所に、アトリエ?の様子を再現したブース。
”覆面アーティスト”の黒いパーカーと影で顔が見えないようになっているマネキンが設置されて、イイ雰囲気が出ていた。
お化け屋敷とかアトラクションに入る感じだった。つまり、バンクシーの世界観に引き込まれてしまった。

前半は初期のリトグラフ作品が中心だった。
消費社会を揶揄したもの、イギリスの政治を風刺したもの、監視社会への反発、抗議……
アメリカの某ネズミ王国のキャラクターとか某ファストフードのキャラクターなどが、アメリカが関わった戦争の写真の世界に入り込んでいたり。(今更ながら、バンクシーはコラージュだと思った。)
それら作品群の意図するところをキャプションが解説。

写真を撮っても良いとのことで、会場にいる人々はこぞって写真を撮っていた。
バンクシー本人がいたら、この“インスタ映え”的?な光景も揶揄するんだろうな…と思いながら、私も撮影会。

反骨精神――社会への問題提起

バンクシーの作品は、消費(経済)、政治(による紛争や戦争)、社会の問題への抗議が多い。
それをポップなイメージに乗せて揶揄する。ブラックユーモア……というべきか、一見するとクスッとさせられるのだがよく見ると(鑑賞者のなかにある知識やイメージと照らし合わせると)深刻な意味が込められている。鑑賞者に内省を促し、気付かせてくれる。

バンクシーの作風と言えば、爆弾のイメージが強い。

外交という国家間の駆け引きが戦争に発展し、個人の意思とは無関係に非戦闘員が巻き込まれること、無差別殺人と国を追われることの不条理。その当事者の嘆きと叫びをアイコニックに表現している。

バンクシーが講義する、怒りの対象は“分断”を招くもののように思えた。

シリアの内戦、移民問題、ブレグジット…これら現代の事象には、一連の流れ――繋がり――がある。

バンクシーが移民ということが、リアルタイムでそれらを体験させ、創作の原動力になっているようだった。

差別はよくないと言いながら存在する差別、それを許す社会。タテマエと悪意のようなホンネを敏感に察知している。

そんな社会が“正”なら、“反”社会的(アナーキー)であるストリートアート(公共の壁への落書き)という手段を用いて作品を描くということは、“正”への揶揄であろう。
また、“壁への落書き”である以上、いずれ消される(認知度が高まったせいで保全狂騒があるけれど)運命にある作品は、インスタレーション作品とも言えるし、そうした社会問題でさえ次の社会問題にかき消される、“消費”されているという事を示しているかのようにも思えた。

現代アートとしての価値

ではその“反”社会的である壁の落書きに何故、アートとしての価値があるのか?
前述したメッセージ性があることと、治安悪化の象徴のような即興の落書き“ではない”――ステンシルを用いた――ことも要因だと思う。

ステンシルとは、あらかじめ段ボールなどを切り抜いて型紙を準備しておいて、それを描きたい場所に持って行き、その型紙の上からスプレーで絵の具を吹きかけて絵を描くという手法です。事前に準備ができるので、その場ですべてを描くグラフィティに比べて精緻でリアルな表現に向いています。特にイリーガルなグラフィティでは、人に見つからないうちに闇に紛れてできるだけ短い時間で描き上げる必要があるので、そういう意味では実践的な描き方です。
(中略)
ステンシルの作品は、どこか知的な印象を与えます。また事前に準備をして、ストリートで一瞬に描いて逃げ去るというプロセス自体が、正当的なグラフィティ文化からはずいぶん逸脱したもののようです。

毛利嘉孝『バンクシー アート・テロリスト』p.37~38

そのメッセージが、“現代”を表現していること、ただの自己満足の独りよがりではないこと――読み手が汲めるもの――も重要だ。

空間表現

何故、公共の場所や個人の家の壁や塀に描かなければならないのか?
“ある場所”の壁に描く、ということを平面のキャンパスの中に留めていないことが、バンクシー“らしさ”でもある。(結果…というか実際“迷惑行為”なので持ち主が保全を望まなければ消される運命にあることも含めて)

バンクシーがステンシルを描く“場所”は、顕著にも潜在的にも様々な問題を抱えている場所、地域だ。(本当は)それを意識・問題提起するものが多い。
一枚の絵としてだけでなく、“場所”も踏まえて解釈しなくてはいけないと思う。

「世界一悪い眺め」に関するエリアには、ベツレヘムに開業したザ・ウォールド・オフ・ホテル( http://www.walledoffhotel.com/ )の部屋の再現、期間限定で作られたテーマパーク的インスタレーションについての記録映像やオブジェなどを展示。

THE WALLED OFF HOTEL

ザ・ウォールド・オフ・ホテルの1室が再現されている。ベッドの上の壁ではパレスチナ人としっかりした装備のイスラエル人が枕投げをしている様子が描かれている……宿泊者はその下で眠ると思うとシュールだ……

通称「世界一眺めの悪いホテル」と皮肉っているホテルは、ベツレヘムの主要な観光地となっているそう。イスラエルとパレスチナの分離の壁の歴史を知る本屋も併設しているらしい。(※1)
分断の原因はバンクシーが拠点とするイギリスの過去の二枚舌外交に由来している。……彼自身、多分、移民?なのもあると思うが。
ここにも幾重にも重ねられた皮肉を垣間見る。

ディスマランドは質の悪いテーマパーク……というより、「報道される様々な世界の危機や事件を見ている私たちは、それを安全な場所からエンターテインメントのように消費している」側面を突きつけられた。

かぼちゃの馬車が事故を起こして横転している。上半身が投げ出されたシンデレラを助け起こそうともせず、パパラッチが写真を撮っている……故ダイアナ妃の事故を思い出さずにはいられない。

PULP FICTION》のアートの一連の流れが面白かった。
タランティーノ監督映画のオマージュ作品。銃に変わってバナナを手にしている作品だったが、

  • 「この作品が人々を刺激してより残虐にしてしまうから」という理由でロンドン交通局によって塗りつぶし。
  • バンクシー、再び制作。今度は手には銃。衣装はバナナ。
  • オゾンという若いグラフィティ・ライターが上書きしメッセージを残す――「次のがもっとましなら、残してやるよ」。数日後、オゾンは電車に轢かれて死んでしまう。
  • バンクシー、オゾンを追悼する絵を上描き。防弾チョッキを着た天使が手には野球帽を被った骸骨を持っている絵。
  • 作品、再度塗りつぶし。
  • イギリス人アーティストのマンティスが、バンクシーの《PULP FICTION》のテーマをもじって、バナナの皮を持っている痩せ細ったアフリカの子供2人を描く。

変化してゆく一連の流れが面白い。……途中に不幸があったけれど、前の作品を知っているから場所にも意味が付与され、それを利用して他のアーティストが継承?していく点が。アーティスト達は互いに“リスペクト”をしている、という点でも。

保全

そんなバンクシー作品の一番の問題は「保全」だろう。保全の一環として描かれた場所から移設されてしまうケースもあるが、盗難される事が多い印象を受ける。(※2)

2009年、イギリスで描かれた《NO BALL GAMES》は「ザ・シンクラ・グループ」という企業にはぎとられ、盗まれたバンクシー展と題して展覧会を行った。しかし、この展覧会にバンクシーは関わっておらず、「ムカつく」とコメントしていたことを紹介していた。

ストリートアートという表現の特性?上、上書きされたり消されるのは許容範囲内だが、自分がプロデュースしていない形での展示は不本意だし、場所を踏まえた上での“作品”と思うから、壁から引きはがされた地点で意図と異なる形になってしまう。
それだけでなく、映画『アートのお値段』で言及されていた、アートの価値とアーティストへの報酬・対価の悩ましい関係について、想起させられる。
バンクシー《Season’s greetings》
天才か反逆か?
このベクトル設定はなんだろう?同義にも聞こえるが、私は以下のように定義してみる。

  • 社会にある既存の枠組み、タテマエ対してその現実を鋭くとらえるのが、天才。
  • 社会にある既存の枠組み、タテマエ対して怒りを持つことが、反逆。

私はバンクシーは天才だと考えている。アーティストとして。
その気づきを作品に投影し、鑑賞者に問題提起する……それは鑑賞者を通して波紋のように世界に衝撃を与えるから。

それで即、世界が変わることはない。そのことをアーティストはもどかしく思うことはあると思う。
問題提起を作品として形にするバンクシーは、自身が出資し作品を描いたボートに移民を救助した(※3)が、途中で立往生した(※4)……
問題提起とアクションを起こすことの労力の隔たりを感じた。

巨大経済圏と相互互助(監視)を構築しようとしたEUに分断をもたらしブクレジットに至る布石は、移民問題に端を発したナショナリズムだった。
シリアをはじめ、自国の内戦で自国に住めなくなった人々……しかし、国は自国民のために在るものなので、他所の国から来た人々全てを支えることはできない。アーティストは直接、根本的なことを解決できない……当たり前だけど。

2020年、covid-19の世界的蔓延に伴い、医療従事者を称える作品は、バンクシーらしくもあり、ロックダウン中に描ける、時代を反映する作品だと思った。(※5)


私が初めてバンクシーを見たのは、15年くらい前の《愛は空中に 花投げ / ”Love is in the Air (Flower Thrower)”》のリトグラフだった。そのアイロニックな作風に惹かれずにはいられなかった。
……今はあの頃の倍の値段が付いている。買っとけばよかったかも?とふりかえる。

  1. 世界一眺めの悪いホテル。バンクシーのウォールドオフホテルの詳細【パレスチナ】
    https://tripnote.jp/palestine/the-walled-off-hotel
    バンクシーが手がけたホテルを見にベツレヘムへ。 | Vogue Japan
    https://www.vogue.co.jp/wedding/article/2019-12-28-honeymoon-bethlehem
  2. 盗難相次ぐバンクシー作品。ストリートアートはどう守られるべきか?|美術手帖
    https://bijutsutecho.com/magazine/insight/20674
  3. バンクシーが巨大救命ボートに資金を提供。地中海の難民救出のため|美術手帖
    https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/22613
  4. バンクシーの移民救助船が立ち往生、伊当局とNGOが救援 写真12枚 国際ニュース:AFPBB News(2020/8/30/)
    https://www.afpbb.com/articles/-/3301844
  5. バンクシー、医療従事者を称賛する新作を公開。サウサンプトン総合病院で展示|美術手帖
    https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/21852
参考文献
『バンクシー展 天才か反逆者か』公式図録
バンクシー アート・テロリスト (光文社新書)
バンクシー アート・テロリスト
Casa BRUTUS(カーサ ブルータス) 2020年 3月号 [バンクシーとは誰か?]
Casa BRUTUS 2020年 3月号 [バンクシーとは誰か?]
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バンクシーを盗んだ男
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