名曲喫茶 ライオン
ベルギー幻想美術館展へは大学時代の友人と一緒に行った。
音楽に詳しい彼女。
お洒落な喫茶店に案内してくれたり、見付けるのが上手い彼女。
「渋谷にあるクラシック音楽喫茶に連れていってみたい。
クラシック音楽で緊縛したい(笑)」
その言葉通り、彼女はまた素敵な喫茶店に案内してくれた。
『名曲喫茶ライオン』
http://lion.main.jp/
渋谷に名曲喫茶なるものがあるとは知らなんだ。
道玄坂を上り、いかがわしい店の間を縫って行くとレトロな建物が。
薄暗く、オペラハウスのように仕立てられた内装には、“帝都最良”を謳う音響設備が設置されていた。
そこでお茶/珈琲を飲みながらクラシックを聞かせてくれる。
談話をするためではなく、本当に音楽を聞く喫茶店だった。歓談する人の姿は殆ど無い。
頼んだのは抹茶。[m:202]
スピーカーからの音楽を聞いていたので、お互い口数は少なくなったが、気まずい沈黙は無く心地好い。
19時になるとコンサートとして、毎日音楽をかけてくれる。
この日は『無伴奏チェロ・ソナタ 作品8』(チェロ/ヤノーシュ・スターカー)だった。
低く高く、時に叫ぶようなチェロの音色が好きだ。
その後、彼女のリクエスト。
エクトル・ベルリオーズ『幻想交響曲』
初めて聞く曲かと思ったが、その曲に聞き覚えがあった。
しかし、何時、何処で聞いたのか判らない。
思い出すのは、中高生だった頃…
悶々としていると、第四楽章に差し掛かる。
力強い行進曲のようだが、鐘の音が聞こえるので、葬送行進曲の様だと思った。
彼女はこの第四楽章に思い入れがあるらしく、解説をくれた。
「作曲者の空想で、フラれた恋人を殺してしまった罪で断頭台に送られるシーンの曲なんだよ」
その瞬間、ようやく思い出した。
私はこの曲を妹に聞かせてもらっていた事に。
そしてこの第四楽章を聞いて、ヴィジョンが結びつかず悩んでいた事を。
力強く進んでいるのに、何故こんなにも不吉な印象を受けるのかと。
“断頭台への道行き”という言葉でようやくヴィジョンが明確になった。
粋な音楽体験と長年の疑問が晴れた事で暫く嬉々としていた。
生の音を聞ける事が一番良いが、中々実現出来ない。
それでもこういった雰囲気を楽しめる空間があり、音楽を聞けるのは良い経験だった。
彼女に感謝。
落ち着いた雰囲気の店から出て、スクランブル交差点に出ると、周りの喧騒が耳障りに感じた。