ティム・バートンの世界
公式サイト
http://www.tim-burton.jp/
六本木・森アーツセンターギャラリーにて。
http://www.roppongihills.com/facilities/macg/
~2015/1/4まで。
ティム・バートンのイマジネーションに触れる展覧会。
私は『バットマン』のジョーカーの名セリフ「お前は月夜に悪魔とダンスを踊ったことがあるか?」や滑稽なグロテスクさに衝撃を受けた。
その後、「名作だ」と『シザー・ハンズ』を薦められ、『スリーピー・ホロウ』にハマり、すっかりティム・バートンの世界観の虜になっていた。
奇怪なものたちが顔を出す。
アニバーサリーの楽しい雰囲気と正反対のようでそうではない彼らの姿。
会場入ってすぐのところには、ペーパーナプキンや小さなメモ、スケッチブックに描かれた着想の断片や人物をデフォルメしたものがシリーズとして並べられていた。
ティム・バートンはディズニーに勤務していたので、ミッキーがデフォルメされていたり、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のジャックがいたり、変な生き物がいたり、日本のウルトラ怪獣と思しきものがいたりと、眺めていて微笑がこぼれる。
ストップモーションアニメ映画で使われた人形や、実写映画のキャラクターデザイン画など、映画ファンには堪らない品々。
本当に恐かった、映画『マーズ・アタック!(1996)』の人形まで(映画ではCGキャラクターだったけど)
それ以外のプライベートな作品やイラストレーションは極彩色の毒気があり、時にユーモア、時に悪意を暴くようなものがあった。
彼のイマジネーションは生まれ育った郊外都市・カリフォルニア州バーバンクにあるという。
画一的に整然と補正されたライフスタイルに退屈さを覚えていたようだ。
均質的な日常の中で、祝祭の時だけにぎやかな装飾が施され活気づく。それが少年だったティム・バートンに大きな影響を与えた。
「郊外で育つってことは、歴史に対する感覚や、文化に対する感覚、何かへの情熱に対する感覚のない場所で育つってことなんだ。人々が音楽を好きだなんて思えなかった。感情が表に出てなかったんだ。ほんとに奇妙だったよ。『なんであんなものがあるんだ?僕はどこにいるんだ?』って感じ。ものごとに対する愛着があるなんて思えなかった。だから順応して自分の大部分を殺すか、自分はみんなと関係を断っていると感じさせてくれるだけの、凄く強力な精神生活を発達させるかの、どちらかを強いられるんだ」。
――ティム・バートン
美術手帖 2014年 11月号 特集ティム・バートン
大場正明『パステルカラーの郊外とゴシックホラーをめぐる物語』p.44
そして空想の世界が彼に生きる力を与えたそうだ。
ジェームズ・ホエール監督映画『フランケンシュタイン(1930)』やエドガー・アラン・ポーの作品、ゴシックホラーに衝撃を受けたという。
それらはバートン映画のディティールに如実に現れていた。
破滅的な生き方への衝動は、飼い殺しのような味気のない日常への反抗、人生の起伏を望む生への情景だと思う。
言葉のあやをあえて額面通りに受け取り、不気味にする。《目を休める》では目玉が視神経を伸ばしながら人物の眼窩から出て、ビーチでくつろいでいた。
三頭身のキャラクターとコミカルな表情、極彩色の世界に、残酷さと不気味さは見えにくくなり、ユーモアに笑いを誘う。
画一的に整備された衛生面や気持ちの無い善行や道徳、作法など欺瞞に過ぎず、美徳ではないとシニカルに笑っているように思えるのは、考えすぎだろうか?
映画『アリス・イン・ワンダーランド』における、上品に振る舞いながら本質は下品である白の女王や、おべっか使いに囲まれている、哀れな赤の女王など。アリスはワンダーランド(アンダーランド)を通して、世間体に振り回されない、アイデンティティーを確立する。
ユーモアを孕んだ魑魅魍魎は画一的に美しく見せた外観の本来の内面で、アイデンティティーの脆弱さを取り繕ったツギハギである、と。
ティム・バートンの映画にツギハギは多い。初期のショートアニメ『ヴィンセント』の長編アニメーションである『フランケンウィニー(2012)』然り。
『バットマン・リターンズ(1989)』におけるキャット・ウーマンのボンテージ風コスチュームも縫い目が強調され、正にツギハギだった。(それは彼女が一度死に、猫の魂をもらったことを象徴しているのかもしれない。)
同時に、ツギハギに見る不器用な愛情――
雑ではあるが、脆さを補い、形を保とうとする。
『フランケンウィニー』にそうした一面があるように。
最も、それは自己愛も起因しているので、痛々しさが否めないのだが。
不安定さや頼りなさは、郊外都市のアイデンティティーの不在に起因するのかも知れない
それらは一軒家の密室の中で煮込まれ、形になった。それは決して悪意を伴うものではなく。
ハロウィンが秋の収穫祭であるだけでなく、悪霊祓の意味があった。ティム・バートンの作品にはそれをモティーフにしているので、それを意識的か無意識的か反映しているように思えた。
会場ではショートアニメの上映。
Tim Burton’s The World of Stainboy
ステイン・ボーイは街の平和を守るヒーローだ。彼の能力はしみを作る以外、何も出来ない。
街の治安を脅かす?不思議な者たちを退治し、治安を守る?シュールさが面白い。
最初期の作品『ヴィンセント』は本人も語る通り、ティム・バートンの分身。
ゴシック・ホラーへの情景と、正常で空虚かつ味気ない現実……次第に少年の内面は理想と現実のギャップから苦悩し、本当に破滅へと向かうブラックユーモアを漂わせている。
ティム・バートンの世界、映画やそうでない魑魅魍魎、ゴシックな精神を楽しむ展覧会だった。
会場のグッズコーナーで、久しぶりにウォンカチョコレートを見た。
http://nestle.jp/brand/wonka/
緑のパッケージの物があったとは知らなんだ……フレーバーが癖になる。
美味しいが大きいので、食べていると甘さで喉が焼けてしまいそうだ(でも、癖になる)
参考文献
美術手帖 2014年 11月号 特集ティム・バートン
【今週のクローズアップ】日本初上陸!「ティム・バートンの世界」展を徹底解剖 – シネマトゥデイ
http://www.cinematoday.jp/page/A0004345