よみがえる正倉院宝物 ─再現模造にみる天平の技─
沖縄県県立美術館・博物館(おきみゅー)にて。
2021年2月9日(火)~3月28日(日)まで
展示されているものは全て再現された模造品。
正倉院宝物の保存方法のひとつの方法として、興味深いものだった。
約1300年もの時間を経ている宝物は、保管方法の問題もさることながら、経年劣化も相まって極めて脆弱……
オリジナルの保全も大切だが、この価値ある宝物を後世に遺すための手段のひとつとしての「再現模造」。その技巧と美しい工芸品を堪能する展覧会だった。
再現模造――同じ素材を用いて作った複製品――によって、天平時代の職人たちの技術を理解する。
また、後世への技術の継承……職人を支える(育てる、に繋げられるか?)、映像として遺しておくことで、万が一失われてもサルベージできる可能性を少しでも上げるための記録として興味深く思う。
再現模造の重要性は
- オリジナルの避けられない経年劣化や災害等による消失なとの万が一への備え
- 先人の技術分析、現在の工芸技術の振興と継承のため
という価値がある。
「複製」「模造」という言葉に「本物ではない」「オリジナルに似せて作った紛いもの」というネガティブなニュアンスが含まれている。
そのため、今回新たに「再現模造」という言葉を提唱したとの事。
Reproductionという言葉から考案されたそう。
華やかな装飾が施されたそれらは、日本が国としての体制を整える黎明期ゆえ、異国情緒あふれる品々だった。
最初に展示されていたのは、伎楽に用いられた楽器や面。法要の折に用いられていた品々。
《螺鈿紫檀五絃琵琶》
目玉になっている再現模造。
弦の復元には上皇后さまが育てられた日本純産種の蚕「小石丸(こいしまる)」の糸を使っている。
会場では実際の演奏風景を上映していた。その音色は現在の弦楽器のものとは響きが何となく異なっていた。
…やわらかい?感じがした。
現在の弦楽器は、ナイロン弦などの人工繊維が多くなってしまったと思う。多分、値段的な理由もあると思う。素材の違いから、今と昔では音の響きは異なっているのだろう。
こうした当時使われていた素材を用いるだけでなく、奏でる事も“保存”だった。
他にも仏具や儀式具、箱など。
金属製の香炉、供物を収めた箱や陶器、染織物が展示されていた。
《七条織成樹皮色袈裟》
雲のような不規則な文様を構成している袈裟。聖武天皇の綴織りの袈裟とのことで、とても鮮やかなものだった。
他の工芸と比べてしまうと、色は黄色味のあるくすんだ印象を受けてしまうけれど…多色が入り混じる色合いを指す“樹皮色”が示す通り、二、三種類の色糸を撚り合わせた糸(杢糸)で織られている。
《七条織成樹皮色袈裟》は六条目の下方の生地が欠失していた。その復元調査によって文様(パターン)の繰り返しを解明し、復元に至ったという。
《螺鈿箱》
黒漆に螺鈿細工の唐花文が美しい。円形の箱の内側にも豪華な錦が敷かれている。花芯は裏面に彩色した水晶がはめてある。
模造にあたって、奈良時代の漆芸技法を忠実に再現したもの。
箱の内側の錦は暈繝地に花卉文を配した文様で、経錦という正倉院のなかでも古い技法で織られているものだそう。
保存方法の一環としての再現も、時代によって変わっていった。
それは調査・分析方法や技術の向上も大きく影響していた。外観を調査し再現したものから、原材料(たとえば木の種類など)も徹底して同種を使う再現に。
学術的な分析の向上にも、伝統芸能の技術継承という点でも興味深いものばかりだった。
使用する素材――木材(黒檀、紫檀)や鼈甲など――がワシントン条約で、もはや手に入らないという点でも……種の保存、素材としての活用といった問題が、今後どうなるのか、どうしていくか気になる。
展覧会グッズ関連も興味深いものだらけだった。 再現模造に因んで、“再現”された缶入りお菓子。6種類のアメが入っている「螺鈿箱(らでんのはこ)」。
再現模造ではないけれど、京漆器で作られた、含綬鳥をあしらった「正倉院紋様 螺鈿蒔絵丸小箱」など。本物の漆の輝きに目を奪われる……
あと、フェリシモからも商品が。
螺鈿紫檀五絃琵琶のモティーフをあしらったもの。
「駱駝に乗った胡人」「熱帯樹」「含綬鳥」の三種。他にないリフレクターのデザインに惹かれて購入。……沖縄の夜道は暗いので、丁度欲しかった。
またミュージアムカフェ「カメカメキッチン」では展覧会に併せてお茶菓子が提供されていた。
奈良県名産の柿最中と沖縄県産の月桃茶のセット。
上品な最中とお茶は美味で、高級な気分を味わえた。