映画『シン・ゴジラ』感想

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映画『シン・ゴジラ』チラシ

公式サイト:
http://www.shin-godzilla.jp/

封切りから1週間経って観たので、既に鋭い指摘をしている感想も多いと思う。
その情報量の多さから、観た人の数だけ解釈ができる作品だった。
私自身の頭の整理のためにしたためておく。

undefined盛大にネタバレあり!鑑賞後に閲覧の程をundefined

2014年ハリウッド版『GODZILLA』も、私は初代『ゴジラ』のイメージを損なっていない(※1)と考えている。
反戦の意図と、人間が解決しえないものという存在の象徴であることを踏まえた描写をしていると思ったため。

そして『シン・ゴジラ』もまた、初代『ゴジラ』のイメージを崩していない。
むしろ日本人だからこそ気づき、原点回帰する、かつ、焼き直しではなくオリジナリティ、政治・軍事シミュレーションの特撮として新生させた。


過去 / 現実

映画『シン・ゴジラ』前半の会議のシーンは、東日本大震災(以下、「311」)の日本政府の姿だった。

「想定外」という言葉には、多くのシチュエーションが込められていた。 事態が「想定外」であるだけでなく、どの法に基づいて動くべきか明確ではないため、それを調べてからでないと動けないという手順の問題を指摘する。 時折、官僚が抱えて持ち歩いている分厚い事務ファイルは、そうした形式を踏まえなければ何もできない現実とその揶揄だと思った。

最も「311」の津波被害および原発の復興なるものは現在進行形で、未だ過去にはなっていないのだが……

虚構

秀逸なキャッチフレーズ、「現実(ニッポン)vs虚構(ゴジラ)」

ここでの虚構はゴジラだけではない。

戦闘シーンでは、直接の流血描写はない。(民間人が倒壊した建物の下敷きになる描写や、橋に押しつぶされた戦車の操縦席内部映像はあるけど)
ゴジラ東京都襲来を阻止すべく、多摩川河川敷での自衛隊による迎撃戦「タバ作戦」。
砲撃・銃撃の命中率の精度が高い…… どういう訳か、周囲の建造物への被弾が見られない…… 傍には武蔵小杉のタワーマンションがあるのに……

これは特撮の伝統の踏襲かも知れない。

何より、現実の政治の世界ではどれだけの人が政権争いや利害を超えていたのだろうか?「311」での地震だけでなく原発事故発生の折に。指揮系統の混乱もあっただろうけれど……

観ていて、「こうあって欲しかった」政治家の動きとも解釈できた。

事態を把握しきれていない当初、総理大臣は周りの意見に押されるように決断していたが、2度目の襲来時には、目に決断の強い意思を感じる。俳優・大杉蓮氏の演技が見事。 真のリーダーシップとは何か、端的に表していたと思う。

その変化を指して、「環境が人を変える」と知人が言っていた。現実の人間がかくあって欲しいと切に願う。

その後、内閣総理大臣以下、前半の主要閣僚はゴジラの破壊光線により死亡してしまうのだが……
ここではまだ、人の理想は時に儚い。

未来 / 希望

前半の後手々々ぐあいから、後半は一気にリーダーシップや外交手腕を駆使し、国連決議による熱核兵器(水爆)使用のカウントダウンを休止させる。
その“奇跡”を実現させたのは、国家間や機密の枠を超えた、民間への“情報開示”によるものだった。
日本人の技術や底力だけで成せたものでも、ハリウッド映画でも古典的なヒーロー(特定の人間)の自己犠牲によるものではなかった。
対ゴジラの血液凝固剤を生成するにあたり、スーパーコンピューターでの解析を、情報開示と共に協力を仰ぐことで、国内外から助力を得た。

インターネットが普及し、動画やSNSでリアルタイムに情報が共有化できる時代。情報の独占や隠蔽は、反って自滅してしまうことを示唆しているかも知れない。

これは先の原発事故でも得た教訓だと思う。
原発のメルトダウン、放射性物質の拡散図を政府が公式に発表したのはずっと後、その前に海外の研究機関の方が正確な情報を公開していた。(※2) 海外の研究機関と連携がとれるパイプを日本政府が持っていなかったのか、意地になって信じなかったか、隠ぺいしたかは、私には分からない。

『ゴジラ vsエヴァンゲリオン』ノート4冊

ゴジラ vs エヴァンゲリオン

今年4月のエイプリルフールから始まり、話題性も兼ねたコラボレーション企画は、単なるファンサービスではなく、映画『シン・ゴジラ』そのものだった。

音楽面でもそうだった。
映画パンフレットにも、伊福部氏の音楽を使うことは決まっていたが、どんなにアレンジしようが伊福部氏による『ゴジラ』の音楽から逃れることはできなかった(※3)との事。

作戦会議や起死回生のシーンには、TV版エヴァでも同様のシーンで使われる事が多かった"Decisive Battle"のアレンジヴァージョンが流れる。
これは「ヤシマ作戦」のテーマソングとして、認知度は更に上がっている。

「ヤシオリ作戦」が「ヤシマ作戦」のセルフオマージュであることは言うまでもない。
これらの音楽と作戦名の響きからもわかるように。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版』における波状攻撃。全国から電源をかき集めたのと同じく、日本中の研究施設がゴジラの血液凝固剤の製造に関わり、ゴジラの動きを封じるために在来線を爆弾化し足元を掬うという、地味だが“今、あるもの”で本来の用途とは別の使い方をしながらも効果的に活用する。
それはTV版「ヤシマ作戦」で第5使徒ラミエルの枷粒子砲を防ぐために、スペースシャトルの船底を再利用した盾を使った事を思い出させた。

神話要素

「ヤシオリ」が分からなかったので調べてみたところ、ヤマタノオロチを退治する際に使われた酒の事だった!
酒にまつわる作戦名だからか……ウヰスキーとコラボをしたのは(笑)。
血液凝固剤を酒に見立て、倒れたゴジラの口から飲ませて(ヤシオリの酒で酔いつぶれたヤマタノオロチ)斃すという、日本神話に準えたものだった。
そうなると作戦司令塔だったやぐらは神事を執り行う祭壇に、白い放射線防護服は宮司の式服に見立てられる――むしろ、初代『ゴジラ』における大戸島の神社での神楽を暗示しているのかもしれない。

この「ヤシオリ」 とは関係無いが、神話ネタから気付いた事をひとつ。
決戦の地となった東京駅で、破壊されなかった東京駅のドームについて。
私はこれが、意図的に破壊されなかったのではないかと考えている。

2012年に復元された、東京駅本来の姿。
このレリーフには謎がある。
干支をあしらっているが、四方(東西南北、「卯、酉、午、子」が相当)がおらず、佐賀・武雄温泉の通気口に該当する干支が見つかった(※4)というもの。何故そうしたのか、単なる遊び心なのかは判明していないという。(※5)

なぜ東西南北だけが佐賀にあったのか。小松靖アナはここで「風水の理論にぶつかる」という。風水では、北東(丑寅)が鬼門、南西(未申)が裏鬼門といって、開口部や水回りの配置を避ける。北東から南西へのラインも不安定ラインで、東京駅のレリーフはこれを打ち消すために、北西(戌亥)から南東(辰巳)のラインを示す干支を置いたのだという。東西南北は要らないわけだ。

一方、東西南北の干支は東京駅からは縁起のよい東西ライン上の佐賀県に置いて、バランスをとった。全体として「日本の安定を願う配置」になるのだと、そんな解説だった。

ヤンヤン『東京駅ドーム「欠けてた干支」見つかった!佐賀・武雄温泉の通気口で発見
http://www.j-cast.com/tv/2014/01/31195602.html

その干支の上には、稲穂を持つ鷹という、珍しい意匠が施されている。
この鷹は、日本神話で日本に稲作をもたらした存在だという。(※6)

東京の、日本の正門と位置付けられた東京駅に、国の発展と安寧の願いを込めて作られたドームを、荒ぶる神によって無下に踏みつぶさせなかった。潜在的な話かもしれないが、製作者のそんな配慮が込められているのではないだろうか?

壊さなかったのは偶然で、自分でも考えすぎかとも思うけど……

ゴジラの姿

今回のゴジラがモーションキャプチャーであるにも拘わらず、予告編のゴジラは尻尾以外の動きが見られなかったので、訝しんでいた。
スーツアクターでないのなら、2足歩行でももっと自然な動きをしても良いのではないかと…ハリウッド版『GODZILLA』(2014)がリアルだったので、その印象を全く感じさせない、むしろ『巨神兵東京に現る』のような、あるいはレイ・ハリーハウゼン『原子怪獣あらわる』のダイナメーションのように見えた。

だが、モーションキャプチャーが狂言師・野村萬斎によるもの(※7)と知って、納得する。

狂言師の型(立ち振舞い)は体幹がしっかりしていること、また重心が下――丹田という場所にあることで身体が安定する、不動さがある。
それが攻撃をものともしないゴジラの不動さに合致していると思ったためだ。

日本の伝統文化を取り入れているという点でも、日本的なる『ゴジラ』への一貫した思いを垣間見れるし、ゴジラスーツもまた、重心が下にあるものなので、何ら違和感がない。

牧吾郎・元教授という人物像

ゴジラにまつわる資料群を残し消えた牧吾郎・元教授。作中におけるマクガフィンだ。

初代『ゴジラ』における、ゴジラを発見した山根恭平博士、ゴジラを斃す芹沢大助博士を足したようなキャラクターとも言えるが、彼はただの“キャラクター”では無い気がした。 これは私の個人的な解釈だが、牧吾郎・元教授とは「庵野監督自身」ではないだろうか?

冒頭から違和感がある。
漂流したボートの中には本人はおらず、船室の中央に男物の綺麗な靴が揃えて置いてある。
そのシチュエーションからまるで首を吊ったようだが遺体はなく、海に入水したならば靴は甲板にあろうが、そうではなかった。
牧吾郎・元教授は生きているのか死んでいるのか、全くわからない状態になる。

ボート捜索のなか、ゴジラが最初に現れたのはこのボートのすぐ傍の海中だった。(まさか、ボートでゴジラを牽引してきたのではあるまいな……?)
さらに折り紙のヒントまで残した遺留品から鑑みられることは、彼は日本が“ゴジラ”に翻弄されるされる事を予測しており、かつ、完全生物であるゴジラを日本が斃すことができることも織り込み済みだったという事だ。
ゴジラ襲撃は全て仕組まれていた事で、牧吾郎・元教授の手によるものだったのではないかと、邪推してしまう。

この“存在が不確かで、全てを知っている”人物は、まるでこの一連の事件の、“物語の作者”のような存在だ。

そして映画『シン・ゴジラ』の“作者”は庵野監督である以上、庵野監督と牧吾郎・元教授は結びついてしまう。

作りたいものを作り、詰め込むものは詰め込んだ。今回の『シン・ゴジラ』の生みの親である庵野監督は、鑑賞者がこの映画を観て得た思いや解釈をどうするか、これが間接的に社会にどう影響するかも含めて、「私は好きにした。君らも好きにしろ」と言い放った(明確な結論を出さずに突き放した)ように思う。
「311」の折、輪番停電を「ヤシマ作戦」と称したように(※8)。

庵野監督の旧作『エヴァ』から変わらないスタンスだ。

ゴジラの尻尾

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最後にクローズアップされるゴジラの尻尾には、複数の人型のようなものが見える。

これに真っ先に思い出されたのは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版Q』における、ジオフロントおよびターミナルドグマにあるリリスの首に群がる、「ヱヴァもどき」の群れだった。
それに類するのか、あるいは似て非なるものかはわからない。

単性生殖?、単独で進化していることは劇中の巨災対の学者たちが既に指摘している。第二形態から第四形態まで、肺魚~爬虫類、恐竜的なものにまで短時間で進化した。
活動停止中のゴジラの尻尾から肉体の一部が落下した描写はあるので、あの時から何か進化し始めていたのは確かだろう。
それはTV版ヱヴァにおける第11使徒・イロウルを彷彿させる。

ゴジラの尻尾の形は、まるで男根のようだ。先端から破壊光線放つし……
尻尾が生殖の象徴――もとい、次世代への命の継承の暗喩と考える。自身が活動停止(死)になった後、“自分とは違う別の可能性”に進化しようとしていたのではないかと……

そしてゴジラの尾びれにあるそれらは、ゴジラの背びれを持つヒト型だった。それではまるで、体内に半永久的な機関を持つ人類のようなものではなかろうか……(やっぱりエヴァ?)
“荒ぶる神”が創造した“人類”、それこそ“シン・人類”だったのかもしれない。


参考文献

  1. 映画『GODZILLA』感想
  2.  『福島第一原発事故による放射性物質の拡散』(Wikipedia)
    https://ja.wikipedia.org/wiki/福島第一原発事故による放射性物質の拡散 (2016/8/10 確認)
    ‘2011年3月17日・18日・19日の3日間米国エネルギー省は米軍の航空機2機で空中測定システム(Aerial Measuring System:AMS)により福島第一原発を中心に周辺約40km圏内、地上高さ1mにおける放射線濃度測定を行った。’(2016/8/10 確認)
  3.  鷺巣詩郎談「音楽の構築」 映画『シン・ゴジラ』劇場パンフレット p.33
  4.  堀田智子「JR東京駅丸の内駅舎の八角形ドーム天井の十二支レリーフの謎
    http://chiwamama.com/2014/02/tokyoeki.html (2016/8/10 確認)
  5.  ヤンヤン「東京駅ドーム「欠けてた干支」見つかった!佐賀・武雄温泉の通気口で発見
    http://www.j-cast.com/tv/2014/01/31195602.html
  6.  福田博通「稲穂を持つ鷲http://shinshizo.com/2012/12/稲穂を持つ鷲/ (2016/8/10 確認)
  7.  「シン・ゴジラ役は野村萬斎だった 329人目のキャストが判明」 ( Oricon Style 2016/7/29 ) http://www.oricon.co.jp/news/2075921/full/ (2016/8/10 確認)
  8. 東日本大震災における「ヤシマ作戦」 (pixiv百科事典) (2016/8/10 確認)
    東北地方太平洋沖地震
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