「線と言葉・楠本まきの仕事」展
まだ過去の日記をまとめてる…orz
東京・弥生美術館にて。
2022年10月1日(土)~12月25日(日)まで。
京都で行われていた展覧会が、東京に巡回してくれた!!
読んだことがある、まだ読んでいない漫画の原画の数々。拝見できるだけでもファンには嬉しいものばかり。
漫画の原稿、という事もあって作品が小さい。原稿もA3、A4サイズというミニマムさ。石岡瑛子女史のように大判ではない所が対照的。
そのサイズ感は小さなデスク上で完結するような…手書きの文字も小さく、内に籠るような印象を受けた。
そして“マンガ”というジャンルでは突出した装丁。豪華で画集と見紛うデザイン。
完成に至る前の色校なども展示。石岡瑛子女史のように細かな修正指示もある。
展覧会のタイトルにも言及されている、その独特な「言葉」。
どこか断片的で、韻を踏んだり反復したり対を成した短文は、詩のような文章。
物語を解説する補足的な文章は無く、その物語の“世界観”を象徴する短文たち。
文学的だ。洋楽の歌詞のようでもある。
好きな漫画に関する展示
『Kの葬列』
私が初めて読んだ『Kの葬列』は、ヨーロッパのサスペンス映画を観ているように思った。
所々に出てくる、神話やキリスト教モティーフやビアズリーのイラストレーションを彷彿させる線の細い絵は、まさに耽美。
作中に出てきた機械猫の墓標は、真鍮製のオブジェだった。
コミックに描かれていたものがリアルに存在する。「これだったのか!」という驚きと、そこから作品内容が想起させられる。
後で展覧会に合わせて出版された、『線と言葉 楠本まきの仕事』を読んで、旧装『Kの葬列』では書体など細かい部分が気になるので何とかならないかと言ったところならないと言われた
との事。カーニングがイマイチだったのか…気づかなかった。
展覧会に合わせて、『Kの葬列』愛蔵版も販売していた!
モノトーンと金を思わせる黄土色の表紙が高級感と懐古趣味を感じさせ、物語のイメージに合っており、没入してしまう。
『KISS××××』
『KISS××××』は少女漫画の恋愛ストーリーの皮を被った、『不思議の国のアリス』のようなゴス感。
当時、私には少女漫画に偏見があった。ありきたりな少女漫画とは……ティーンの学校を舞台にしたガールミーツボーイの初恋、やれ誰が好きか嫌いかどっちが良いかのドタバタ劇という。それとは違うほのぼのしつつも何処かクールな雰囲気に「こういう少女漫画もあるのか!」と衝撃を受けた。
会場で小さめテレビに『VIDEO KISS××××』が上映されていた。
同じ場所で、映像に出てきたステージにあった、白い幕に『KISS××××』のコマ投影されたものが再現されていた。傍にはステージ中央に出てきたオブジェが展示。
このオブジェ、『耽美生活百科』にも紹介されていた。お引越しの際、業者さんに「持ち上げたら壊れてしまいそう…」と言われ、妹さんから「捨てていくか」と提案されていたモノ……現物を拝見し、思い出されてニヤニヤしてしまった。
あと、展示物は少なかったが『致死量ド―リス』はヒロイン・密の破滅的な生き方にちょっとした羨望を持った一冊。ゴシックの美学だった。
『耽美生活百科』で楠本まきさんが私の肉
と書いていたのも印象的。
装丁もシンプルな表紙デザイン――白地に銀色のハサミ――が目を惹くし、全ページがカラー…それもエピソード毎に色味が違うという徹底ぶり。
洗練されたデザイン性に何度も読み返した思い出。
世紀末と自己表現
私が楠本まきさんとその漫画を知ったのは、好きだったバンド・MALICE MIZERのベーシストが好きな漫画家として紹介・対談されていたのがきっかけ。
バンドの音楽と作品の雰囲気が凄く合っていて、惹かれた。
90年代の閉塞感…バブル崩壊、それに伴う不良債権処理、それまで多事業展開から(中には誤った)選択と集中が謳われ、それまでの価値観では通用しなくなった時代。この頃から「みんな一緒ではなく、これからは個性の時代!!」が言及され始めたように思う。
先の見えない、漠然とした不安が顕著になってきた頃、世はちょうど20世紀末。
心の問題――今まで画一化した人材になる事を求められ、その抑圧による反動か、自殺や傷害事件が発生する……——が注目され、「自分らしさ」とは何なのかを模索する「自分探し」が提案されるようになった(その10年後、それは揶揄されネタにされる訳だが)。
そんな空気感があった。
そんな中で楠本まき氏のコミックの際立つ“個性”とビアズリー的――退廃的であり“世紀末的”――なイラストレーションは、時代に合っていたのだと思う。
今にも折れそうな線の細さは虚弱なイメージ……打ちのめされ傷ついた閉塞感のある時代に。
他人に好印象を与えるためにするものから、自分を表現するためのファッションへ。
世紀末的な、ダークな雰囲気ばかり注目されるが、ゴシック――私はカウンターカルチャーの亜流だと思っている――精神。
楠本まきさんの作品に、そうした時代の先駆を見た。
展覧会コラボメニュー
併設されている夢二カフェ港やにて、期間限定メニューの提供。コースターのプレゼント付き。
『耽美生活百科』に登場するミルクティーを再現したもの。
煮出した濃い紅茶と濃厚クリームの味が相乗効果で美味。
後日、銀座バー十誡へ。
こちらでもコラボメニューを提供していた。
私が頂いたのは『jelly fish –空気に溺れる 水族館のゼリーポンチ–』
ジントニックを入れると深い青からピンク色へと変化した。
ちょっと不思議な体験が、楠本まきさんの作品のイメージとリンクする。
マシュマロ?も爽やかな味で美味しかった。
このバーも好き。退廃的な空間、そして蔵書があり雰囲気がたまらない。
楠本まきさんの展覧会とのコラボも納得…というより当然のように思う。
- 参考文献
- 楠本まき『線と言葉 楠本まきの仕事』
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