映画『ホビット 思いがけない冒険』感想

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『ホビット 思いがけない冒険』

公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/thehobbitpart1/

最早、映画史に残る叙事詩『ロード・オブ・ザ・リング』の前日譚だ。
原作小説では『思いがけない冒険』『行きて帰りし物語』の上下巻。
ピーター・ジャクソン監督は3部作撮影時から着想を既にお持ちだったと思われる。

物語はビルボ・バギンズがふとした事から平和なホビット庄から引っ張り出され、13人のドワーフ達と共に竜に奪われたドワーフ王国を取り戻す旅に出る、という話。
その冒険の途中、あの指輪と邂逅する。

ロード・オブ・ザ・リング』では人間・エルフの軍隊が活躍するが、今回はドワーフの軍勢が活躍するのも今までとは異なるので面白い。

主人公のビルボ・バギンズは英雄でも戦士でもない。
力は無くても持てる力で何かを成し遂げる冒険譚だ。ビルボが壮年期の年齢というのも、青年の成長とは違う変化の物語であることを感じさせる。

1人の小さな力が、やがては世界を変える。そんな心強い物語だ。

今回の字幕、『ロード・オブ・ザ・リング』で物議を醸した戸田のなっちゃんではなかった…日本で出版された翻訳書をベースにしているうようだった。
そのためか、とてもシンプルな言葉で、台詞の粋なノリツッコミが伝わってきた。

イギリスの神話としての『指輪物語』

言語学者であったトールキンはエルフ語、ドワーフの言語も製作し、遺していた。その徹底した世界観にいつも感嘆してしまう。
その徹底振りが映画でも成されているので、監督・ピーター・ジャクソン氏に敬意
妥協しない細部への再現と拘りがJ.R.R.トールキンの叙情詩を壮大な神話にしたと思う。
『ロード・オブ・ザ・リング』からの懐かしい情景に安心する。そこには随所にイギリスらしさが溢れている。

原作でも英国の田園風景からインスピレーションを得ているシャイア(ホビット庄)。
暖かい暖炉と木の温もりがある家。ハーブや四季折々の花が咲く庭。

ケルト民族の意匠に象徴されるドワーフの王国。
堅牢な地下都市やドワーフ達が造る機能的で匠の技が光る武器や緻密な宝飾品。

アールヌーヴォー調のエルフの森。
自然との調和や洗練されたライフスタイルを思わせる。

随所に見られるイギリス的意匠からも『指輪物語』がイギリスの神話たらんとしたトールキンの意図を汲んでいると改めて思う。
最も、ケルト文化(アイルランド)はイギリス的とは言い切れないし、アールヌーヴォーはイギリスではゴシック・リバイバルとアーツ・アンド・クラフツ運動になるが、影響を与えていることは否めない。
それは音楽にも表現されている。

参考:『指輪物語とは』
http://www.h3.dion.ne.jp/~jtpage/exclaim2/rpg/ring/whatring.htm

童話と神話 2人の監督

今回、興味深かったのはゴブリン達の姿とゴラムの姿だ。感覚的だが『ロード・オブ・ザ・リング』とはちょっと違う感じがしたのだ。
おそらく脚本のギレルモ・デル・トロ氏の影響があるのではないだろうか。『パンズ・ラビリンス』監督、『ダーク・フェアリー』脚本を担当した、私の好きな監督の一人だ。
ギレルモ氏は元々『ホビット』シリーズの監督に起用されていたが、諸事情あって降板した……
ピーター・ジャクソン監督が引き継ぎ、前任のギレルモ監督が作り上げた生き物の造形などをほとんど変更してしまったいう話だったが、それでもギレルモらしさが残っている――

ビルボが追ってくるゴラムから逃れようとして岩に挟まれた時、薄暗闇にぼんやりと見える中でこちらに気付いたゴラムの輝く目は、見つかった事の戦慄を強く意識させた。
この表現は今まで無かったと思う。

神話的な『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでは闇の軍制であるオーク、トロル、ウルク・ハイが登場する。
しかし、当初童話として書かれた『ホビット』では(エルフが闇の拷問の末に堕ちたという)オークではなく、狡猾な生き物・ゴブリンが現れる。(ゴブリン=オークとする解釈もあるが、私は別物と解釈している)
映画の中のゴブリンは餓鬼のような姿で不気味なのに何処か愛嬌があるのだ。

茶色のラダガストの衣装もまた、逸脱している。同じ魔法使いの“灰色のガンダルフ”や“白のサルマン”の衣装は洗練された凝り方をしているが、自然と一体化してしまった凝り方だ。
ラダガストの口から出てくるフナムシにギレルモ監督の映画『パンズ・ラビリンス』の冒頭のシーンを思い出す。

ギレルモ氏らしさは、カメラアングルにも現れていたと思う。
ロード・オブ・ザ・リング』で自然の雄大さを活かした情景をピーター・ジャクソン監督は描いていた(鳥瞰)。だが『ホビット』では個々の動植物にフォーカスされていたように感じる(マクロ撮影)。
例えば茶のラダガストの小動物への治療描写や、ゴラムが棲んでいた洞窟に群生する巨大キノコなど。

原作の『指輪物語』が神話的叙事詩で『ホビットの冒険』が童話なら、ダークで童話的な世界観の映画を創るギレルモ氏が監督と指名されたのも頷ける。原作の特徴を踏まえての事だったと私は考える。

結果、ピーター・ジャクソン監督が製作する事となったが、決して原作のイメージを損なわない映画になると期待。
2部構成かと思いきや、こちらも3部作になるとの事。
次回作も楽しみだ。

余談:
この公開を記念して、ニュージーランド航空の機内安全ビデオが『ロード・オブ・ザ・リング』仕様になっている。
ビーター・ジャクソン監督らも出演しているという、力の入れよう(笑)

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