映画『ダーク・フェアリー』感想

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『ダーク・フェアリー』

公式サイト:
http://darkfairy.jp/

素晴らしきトラウマ映画だった。

『パンズ・ラビリンス』以降、ギレルモ氏のファンになってしまった。悲劇的な物語の中に小さな希望を遺す作風に魅せられてしまう。
……今回は、脚本・製作担当のようだが。それでもギレルモ氏らしさがあった。

この映画は70年代のTVムービー『地下室の魔物』のリメイク。当時から後味の悪さからトラウマ映画として語り草になったもの。『地下室の魔物』を調べて結末がわかってしまったが、それでも観たことを全く後悔しない。
『ダーク・フェアリー』の妖精たちは姿が見えるのに、恐ろしい。夜闇だけでなく、物影にも潜むタチの悪いブギーマンだった。
ハサミやカミソリ、針金などを武器に四方八方から襲ってくる。
まるで身近な凶器/狂気の集大成のようだった。

この映画は『パンズ・ラビリンス』や『永遠の子供たち』との関連は切り離せない。
母子関係の物語でもある。

キムはサリーの父の再婚相手で、義理の母子関係となる。
母親になれるか自信が無いキム。実母から父に“譲られた”と語り、孤独を内包するサリー。
友達のような接し方から、次第に親子になろうとしていた2人。
暗闇に引きずり込まれそうになったサリーを救うために傷を負いながら立ち向かうキムの鋭い眼光は、母親の顔だった。
だからラストの後味の悪さはひとしおだ。
救いの無い物語に、それでも希望を遺してある。
キムはサリーに自分のお気に入りの場所に連れて綺麗な鯉を見せる。強さの象徴として鯉を語り、サリーに「強くなって」と語る。
そして立ち向かう姿勢を身をもって示し、サリーはそれをちゃんと受け取っただろうから。
ラストにサリーが描いた、サリーとキムが一緒に鯉を見ている絵が象徴的だった。

細かい所を突っ込んだ、ネタバレ満載の考察と感想

トゥースフェアリー

これは旧作との相違でもあるが、地下室の魔物が具体的な名称がある。
“トゥースフェアリー”はヨーロッパでは馴染み深い存在で、乳歯が抜けるのはこの妖精の仕業らしい。乳歯が抜けた時、その歯を枕の下に入れて寝むると、トゥースフェアリーがやってきて、乳歯をコインやちょっとしたプレゼントと引き換えに持っていくそうだ。

ギレルモ氏は『トゥースフェアリーが、なぜ歯を欲しがるか不思議だった』と語る。
ギレルモ氏が監督の『ヘル・ボーイ ゴールデンアーミー』でも今回とは違う怪物のようなトゥースフェアリーが現れる所からも以前から構想が伺える。

『ダーク・フェアリー』におけるトゥースフェアリーが歯だけではなく骨を主食とする、という設定が興味深い。
私の中で、“彼らが不死を得るために主食としている”と想像が出来たためだ。

ギリシア神話に『メコネの籤』というエピソードがある。
かつて大神ゼウスが飢餓によって人類を滅ぼそうとした際、神への供物と人間の主食を籤で決めた。その際、プロメテウスが機転をきかせ、1つは雄牛の胃袋に詰めた雄牛の肉(不潔な覆いに包まれた食べ物)、もう1つはぎらぎらした脂で覆われた骨(美味しそうに見えるが食べ物ではない)を差し出した。
ゼウスは後者を選び、以降、人間は神に肉を供物として捧げずにすむようになったという。
プロメテウスに欺かれ、激怒したゼウスは言う。
「骨は醜く朽ち果てる肉とは違い、永遠である」と。
負け惜しみにも聞こえるが、永遠である神に肉の供物は不要なのである。
骨≒永遠≒不死の図式が見え隠れする。

そしてこのことがこのトゥースフェアリーにも当てはまるのではないだろうか。
サリーの身代りに窖に引き込まれてしまったキムはトゥースフェアリーの仲間になってしまった。
サリー達が去った後、彼女は言う。

『待てばいいのよ。時間は沢山あるわ』

この台詞からも彼らが不死に近い存在であることが伺える。

興味深いのは父親はトゥースフェアリーを目撃せず、直接関われないこと。
ギレルモ監督特有の、母子にスポットが当たることも理由だろう。そして古今東西、異界のものに関われるのが女と子供であることを踏まえているようだ。
目や耳を潰されそうになるが辛うじて回避され、傷は浅く、治って痕がなくなる。それ故に第三者から見ればトゥースフェアリーの存在を証明するものは皆無になってしまうのである。

考えても見れば、お風呂場でサリーがトゥースフェアリーに襲われたとき、カミソリや針金は風呂場にありそうなもので襲われ、サリーが暴れたため、自傷したようにしか見えない。
両親の離婚や、実母から父に“譲られた”と語るサリーの心傷を考えると、周囲の人々は情緒不安定が引き起こすものと思ってしまう。

報われない恐怖

この映画の恐怖は“報われない恐怖”ではないだろうか?
さらに言うと“取り込まれてしまう”恐怖だ。
過去のエピソードで語られる、動物画家・ブラックウッド氏はトゥースフェアリーに拐われてしまった息子を取り戻そうと、自身とメイドを傷付けて得た歯を“身代金”にするも、窖に引きずり込まれてしまう。
冒頭でメイドを階段から転落させたトラップはおそらくブラックウッド氏が仕掛けたものだ。
そしてこれと同じものをトゥースフェアリーが仕掛け、キムを階段から転落させるのである。
このことからも窖に引きずり込まれると餌食になるだけではなく、おぞましいトゥースフェアリーの仲間になってしまうことが示唆されていると思う。
自己犠牲を厭わなかったキムも、これは考えが及ばなかっただろう。
サリーを守ったキムは、いつか別の子供を餌食にしてしまうのだ。

自然美を表現した屋敷

トゥースフェアリーがいなければ、住んでみたい美しい屋敷だった。
19世紀イギリスのネオ・ゴシック様式を思わせる。
教会建築と自然風景を描写したステンドグラス。
ギレルモ氏の今までの映画の世界観を集大成した屋敷だった。
ホラー映画定番の、不気味な雰囲気を感じさせない、“自然な”屋敷だった。

矛盾がない、細部まで描写された美しいホラー映画であった。

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