映画『パンドラム』感想

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細部まで造り込んである良いSFであったのに、何故か日本では話題になっていなかった…何故だ?

未来、地球型惑星・タニスに向かう移民船・エリジウムで冷凍睡眠から目覚めたバウアー伍長。
長時間の冷凍睡眠からの覚醒のため、目的や記憶があやふやだった。
船内の様子がおかしく、更に人ではない異質な“何か”に襲われる――

SFホラーの定番の筋書きだが、咀嚼すると設定の細かさ、2度見ると画面にある様々な布石に気付かされた。

人類が経験した事がないものが恐怖への引き金である。
パンドラム症(軌道機能不全症候群の意)と呼ばれる、長期間の冷凍睡眠、閉塞空間からくる精神疾患(因みにこれは架空のもの)がキーパーソンとなる。
最初は手足の震え、かゆみを感じるだけだが、症状が悪化すると妄想・幻覚に苛まれ、何をしでかすかわからないという。
語られるエピソードでは、パンドラム症を患った士官が、乗船している船が呪われていると思い込み、乗船者全員を脱出ポッドで宇宙空間に放出し、全員死亡したという。

……何もない暗闇の宇宙に単身で放り出される恐怖。
考えるだけで恐ろしい。

『エイリアン』にあるような薄暗い船内に“何か”が潜んでいる恐怖ではなく、未知のものが目に見えてしまう故の恐怖かも知れない。
未知の、“ハンターズ”と呼ばれるものに襲われる恐怖。
パンドラム症の進行による幻覚に惑わされること。
“ハンターズ”が元・人間で、パンドラム症を起こした人間が引き起こした悲劇の結果という事実だ。
パンドラムの狂気の連鎖に侵食される恐怖もあると思う。
“ハンターズ”は冷凍催眠から目覚めた人間を狩って喰う。そして死んだ同族さえも。
閉鎖された場所故に発生したカニバリズムは、他の生態系が無い宇宙船の中で新鮮なタンパク質等の摂取が難しいため、必然的にそうなったというのは理解する。
同時に、私には“ハンターズ”がパンドラムの悪夢を引き継ぎ、再現している存在に思えてならない。

事の発端となる(既にパンドラム症候群で精神が病んでいた)3人のチームは、地球滅亡という故郷消失と目的地を見失うという絶望から、パンドラム症を悪化させ殺し合いをする。
生き残った男・ギャロ伍長は任務を放棄し船内で“遊ぶ”ことを思い立つ。適当に目覚めさせた乗員を“オモチャ”に、貨物室に閉じ込めサバイバルをさせ、その様子を楽しんだという。
まるで自身の体験を元にしたようだ。
そして“オモチャ”にされた人間の子孫が“ハンターズ”だった。
“オモチャ”にされた人間がパンドラム症を発症していた可能性もある。その精神障害から身体にも影響があったのではないだろうか。

6万人の移民船で生き残った人類は1213人だった…
生存者は脱出ポッドで船外に脱出することが出来たものの、“ハンターズ”がいるエリジウムは存在している。

因みに船の名前・エリジウムはギリシア神話のエリュシオン(エリゼの園)のこと。神に愛された人間が死後幸福な生活を送る野であるという。
冷凍睡眠と永眠――
似て非なるものに関連性を感じ、戦慄する。

この物語も神話要素が暗示するなら、“パンドラム”はやはり“パンドラの壺”だろうか?
地球からエリジウムに発せれた最後の言葉は、励ましと祈りであり希望を込めたものであったのに、絶望に転じた。
満ちている悪意の底にある希望は何なのであろう?

聞けば、この映画は3部作予定であるとか。
……経済的な部分で続編製作は大丈夫だろうか?
私は続編を希望。そして良質な物語である事を期待。

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