フェルメールからのラブレター展

白黒イラスト素材【シルエットAC】
JUGEMテーマ:展覧会

Bunkamuraザ・ミュージアムにて。
2012/3/14まで。
http://vermeer-message.com/

言わずもがな、フェルメールの作品が3点も揃うだけでも満足できる展覧会。

前回の《地理学者》の展覧会では大航海時代、世界が広がり新しい知識への驚嘆と博物学への敬意を感じたが、それをもたらした“情報の伝達”についてフォーカスされた気がする。
『フェルメール《地理学者》とオランダ・フランドル絵画展』

情報伝達――手紙の普及は庶民の識字率・教育の高さを証明していた。
当時のオランダの“コミュニケーション”をテーマに家族などの人間関係、手紙に纏わる絵画も展示。

それらを見てもフェルメールの素晴らしさが分かる。
フェルメール作品の魅力についてはカメラ・オブ・スキュラを通した光の輝きの誇張、ソフトフォーカスのピンボケ画風による注視は以前の日記に記述。
北川健二『フェルメール絵画の謎の本質を読み解く』

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女》

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女
このモデルが着ているアーミン毛皮で縁取りされた柔らかな黄色いモーニング・コートはフェルメールのお気に入りであったようだ。黄色の服は光の反射をよく表現するためかも知れない。
彼女の真珠の耳飾りもまた誇張され、その輝きが際立って表現されていた。
テーブル上の真珠の輝きも相まって輝きに満ちている。
髪、サテンのリボン、真珠の耳飾り――同じ黄色も質感の違いを巧みに描き分けている。

愛と喜びに溢れ、輝く彼女の姿。
だが、別の解釈で机の上の宝飾品は欺瞞の寓意であるという……伝統的に黄色い衣はキリストを裏切ったユダの衣装に用いられたが……果たしてこれは関係があるだろうか?

ヨハネス・フェルメール《手紙を読む青衣の女》

ヨハネス・フェルメール《手紙を読む青衣の女
背後の壁にかけられた地図、手前にある人影のない椅子は愛する人の不在を暗示する。
地図から恋人が船乗りであると想像すると、手紙が個人にも普及した時代とは言え船乗りの手紙が届くのは2年を要したそうだ。
文面にある差出人の安否は、受け取り人にとっては過去のものだ。
衣装の色もあって、彼女が湛える静謐さはこちらに訴えかけるものがある。
その秘めた思いを見ている側は知る由も無い――

彼女の下腹部は膨らみがあり、妊娠しているという解釈もある。
それが衣服ためかは判断ができないが、物語は一層深まる。
青――ラピスラズリを用いたウルトラマリンは高価な顔料であるため、伝統的に聖母の衣装に使われた。
妊婦――そこに聖母を見ることは可能だろうか。

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女と召使い》

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女と召使い
床には赤い封印が横に引き裂かれ、投げ捨てられた手紙がある。葛藤があったことを伺わせる。
後ろに描かれているのは《モーセの発見》であるという。
これは敵対者同士の争いを鎮める喩で、恋人との和解を求める、女性の心理を表現しているそうだ。
深い赤を輝かせるように光が差し込んでいる。それは妙に落ち着きのある輝きだ。激情の後の、静かな時間。

思えば、この3枚は“色の三原色”であった。
この意図はなんであろうか?
色の三原色、その原理の解明は確か18世紀頃であったので科学的意図があったとは思えない。
中世ヨーロッパにおける“三原色”は白・黒・赤であったが、これは直接結び付かない。

ネットで興味深いコラムを読んだ。
そこには当時のオランダ絵画が赤・黄・褐色が中心であったことを指摘されていた。
参考:『静かな色のメッセージ「フェルメールからのラブレター展」』
http://column.madamefigaro.jp/culture/art/post-944.html
そこに“フェルメール・ブルー”が加わる。
こうして3つの色が揃う。では何故そうしたのか。
そういえばフェルメールは何故、ウルトラマリンという高値な青・ラピスラズリを用いたのだろう?
スピノザの汎神論の影響なら、何か普遍的な輝きを表現できると考えたのだろうか。
色あせることのない、青い輝きに永遠を求めたのだろうか。

私は3つの色をもって3つの感情を表す試みにも感じた。まるでカラーイメージを実践するような。

喜び(あるいは欺瞞)の黄。
瞑想(あるいは悲壮)の青。
情熱(あるいは憤怒)の赤。

画家たちの飽くなき表現の探求心に思いを馳せてしまった。

エドワール・コリエル《レター・ラック》

他の作品で気に入ったのは資料的絵画。
エドワール・コリエル《レター・ラック
手紙に関する当時の道具が描かれたもの。
羽ペン、封蝋用の蝋燭とスタンプ……現在、インテリアとして壁に掛けられていてもお洒落だと思った。

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