映画『いばらの王 -King of THORN-』感想

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いばらの王

『いばらの王』オフィシャルサイト
http://www.kingofthorn.net/

ディテールや、映像の綺麗さに惹かれ、観に行った。
良い映画だった…
私は原作コミックを読んでいないのだが、映画としてよくまとまっていると思う。

SFサスペンス色、物語展開も良い。
映画として物語に散りばめられていた布石はきちんと回収されているので。

劇場で原作を知っているとおぼしき人達が『B級』と評していたが、私は十分楽しめた。

SFアクションの中に、心理学のイメージが散りばめられている。
例えばグリム童話『いばら姫』のモティーフやカラヴァッジョ《メドゥーサの首》など。
神話や民話モティーフは心理学・精神分析成立時から手を結んでいるので、それを直ぐ連想した。

いばら姫は蕀に囚われているのではなく“守られている”こと、それは少女から女になる思春期の不安と防衛(それ故の拒絶)という解釈。

カラヴァッジョ《メドゥーサの首》

メドゥーサにも“目を見たものは石になる”というのは“心の内を見透かされて驚き固まる(石になる)ことのメタファーである――という解釈がある。

これらの事から、この物語の根底に“トラウマ”というものが大きく作用していると思った。

主人公ら登場人物は総じて『トラウマ持ち』である。

彼等の弱点であるそれは、同時に彼等の強みとなる。
極限まで死に近い所で、登場人物達は生きるために結果として各々のトラウマと向き合うことになってゆく。

その生きようとする意志への讃歌。

しかし登場人物達は自身が抱えるトラウマを克服出来ただろうか?
死んでゆく登場人物達が各々の理由から、まだ生きている人に言葉を遺していく姿は悲劇的でもあり、昇華されたように思えた。

最後に誰が生き残ったのか、何が生き残ったのかは混乱する所があるが、それでも良い映画だった。

以下、ネタバレ考察


ネタバレ考察

結局、メドゥーサと呼ばれる未知の伝染病は、病では無く“生命の進化を促進するもの”であった。

それは“想像するものを具現化出来る能力”であるという。
そしてその能力はトラウマを持つ人間がより顕著に出る。

『こうありたい』と願う意志がそのものの変化を促すという普遍的な話であるとも解釈できるが、前述した通り登場人物が己のトラウマを克服して生きる描写は無い。

主人公であるカスミ・イシキは双子の姉シズク・イシキがメドゥーサによって産み出した“オルタナティブ”であり、本物のカスミではなかった。

“オルタナティブ”であるカスミがいつ石化してもおかしくない少年と生き残る事は興味深い。

悲劇的な終わり方の中に、“オルタナティブ”の生命としての進化を見ることも、死んでいった人間の意志は生き残った人間に託された事を思うと、希望に続く物語だった。

それ故に、私はこの映画を肯定に捉えている。

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