映画『ダークナイト ライジング』感想

白黒イラスト素材【シルエットAC】
JUGEMテーマ:映画

公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/batman3/

3部作最後の章。
全て見たが、切り口が多い物語に感嘆する。

それ故この映画は芸術の粋に迫るものだったと思う。“一における多の表現”という、ルネサンス期の芸術理念を基準としてだ。

社会の複雑さから発生する矛盾により貧困・義憤等から犯罪が起こる“社会的”な描写から、ヒーローの苦悩と周りの人間の助力を得ての克服という“個人的”なものまで。

物語の『悪を斃すために正義を行使するとは何か』という問題定義。善と悪の境界線は常に曖昧で、苦悩と共に常にブレ続けている。

 その本質を突いた前作『ダークナイト』では“正義と悪は紙一重”である事を的確に表現している。

『リアル志向(現実的/原作に忠実)』を違和感無くまとめ上げたクリストファー・ノーラン監督に脱帽。

故ヒース・レジャー氏が熱演した敵役ジョーカーの狂気が強すぎて(寧ろ越えられない)今回の敵役・ベインに物足りなさを感じる声も聞かれた。

今回の映画は第1作目『バットマン ビギンズ(以下、ビギンズ)』の延長、寧ろ回帰的な部分を強く意識させる。勿論、同じ肉からハムを切り出すようなものではなく、微妙な差異があるのだが。

回帰、つまり「くり返し」の物語である事が重要ではないだろうか。
それをタイトルが示唆している。

因みに原題では"THE DARK KNIGTH RISES"(ライゼス)進行形ではない。

RISES

  • 上がる, 立ち昇る, 立つ
  • 〈太陽・月・星が〉昇る(⇔set)
  • (地位・重要性・評価などにおいて)高くなる, 向上する
  • 立ち上がる, 起き上がる.
  • (…に反抗・反対して)立ち上がる, 蜂起する
  • (死から)よみがえる, 生き返る

この多義的な言葉が全てを物語っている。

ビギンズ』で執事アルフレッドが『何故人は落ちるのか?這い上がるためですよ』と語る。
それを思い出して物語を見る。

バットマン=大富豪・ブルース・ウェインは前作での負傷や失意(加齢も)により、身体が思うように動かなくなっている事が描写される。
更には敵の策略に嵌り全財産を失う。協力者を失ったり、敗北し牢に投げ込まれれてしまう。
(あの牢屋、ターセム監督の『落下の王国』にも現れたアーバーネリー階段井戸によく似ている)
それは『ビギンズ』の井戸を髣髴させ、再び這い上がる事を暗示させる。

 上記はバットマン=ブルース・ウェイン“個人”の再生と復活という視点だが、それだけではない。
社会的な部分を描写する"RISES"――“蜂起”だ。
前作『ダークナイト』の熱血検事デント罪を暴き、彼が制定した犯罪防止法の重圧に不満を持っているものと解き放つ。警察が機能せず、(ベインは自警団を作ることを宣言する。
法と秩序から離れた自分なりの正義に支配されるゴッサム・シティ。
それは独善的な暴力に繋がってゆく。

法と秩序から離れた正義――実はバットマン自身、法に縛られない孤独な自警団でもあった。
ここに自警団思想を巡る問題定義が描かれている。
そしてこれはバットマンの苦悩へと繋がっているのである。1作目から問題定義の1つとして語られている。

この問題定義の反復と苦悩はいつの時代・どんな場所でも起こりうる。
そしてそれに意を唱え、ただしくあろうとする人の悟性が、英雄となることを改めて思い知らされる。
それは世代を経て受け継がれることも。

それにしても…かつてこれ程までにヒーローの幸福を願った映画はあっただろうか。悲劇的な終わり方をしないエンディング。
ダークナイト』との間に製作された『インセプション』の役者とキャラクターの関係性も絡んでいる。皆まで言うとネタバレになるので自粛。

PVアクセスランキング にほんブログ村
大容量無料ファイル転送サービス【ACデータ】