映画『タイタンの戦い』感想
ようやっと観賞。
http://wwws.warnerbros.co.jp/clashofthetitans/
先ず全体の印象を。
「旧作を覆そうとして、色々と散漫になってはいまいか?」
寧ろカットされているシーンがあるように思えてならない。そうだとしたら1時間45分と言わず、もう少し長くして余韻を持たせて欲しい。
私は旧作を知っているので、そして旧作が大好きなので、文句が多くなってしまいそうだ。
例えば戦闘。
現代の技術向上で、迫力ある映像なのだが、それ故に戦闘を見せすぎて緊迫感が感じられなかった。
巨大蠍然り、何より旧作でのメドゥーサとの戦闘における息を殺し潜む緊張感がまるで無かった。
動きは勿論ナチュラルだと思うが、スピード出過ぎ。
例えば人物相関。
オリンポス12神がいるにも関わらず、彼らが何の神であるか明確でない。意匠を知っていると判るが。
そして英雄に力を貸すのはペルセウスの実父にあたるゼウスだけ。
それも旧作との相違。剣以外に兜と盾を賜る。これがメドゥーサ退治の要であるのに…
冥王ハデスが哀れな程悪意に満ちている…神話においても哀れだが。
人間関係も旧作と異なる。
ペルセウスの(人間の)父が旧作での敵・カリボスとなり立ちはだかる。
これはギリシア神話とも異なる。
導き手となる黄金の機械仕掛けのフクロウと助言をくれる老賢人は、新しいキャラクター・イオという女性に集約されていた。
時に、イオは別の物語におけるゼウスの愛人の1人ではなかったか?
参考:イーオー(ウィキペディア)
…比較検討したい位だが、今回は割愛。
今度は誉めてみよう。
まず第一に、神々と人間の関係性の描写。
“人間の信仰故に神々は不死である”という理に敵った設定は、より多くの信仰を集めた神々の名が知られ、体系化されていった神話の成り立ちそのものだ。
カシオペイアの傲慢さは旧作以上に神話のそれに近い。
ただし女神とアンドロメダ女王そして己の美しさを比較し、不興を買ったのは冥王ハデスではなく女神ティティスだが。
参考:『シャルル=アントワーヌ・コワペル《アンドロメダを救うペルセウス》』
そしてギリシア神話に基づくペルセウスのアルゴス王殺害である。
ギリシア神話ではペルセウスはアルゴス王の孫にあたるが、リメイク版では父となっている。
旧作でそれが描写される事はなかったのだが、リメイク版でそれは成就されていた。
参考:『ギリシャ神話 ダナエ』
新しいキャラクターも多かった。ハルピュイアが出てきた(最初、セイレーンだと思っていた)。それはそれで嬉しい。
舞台装置は旧作に基づいたものが多く、そのスケールが大きくなって圧巻である。人間を表す土人形が並んだ棚は巨大で、その人が死ぬと砕けるという描写まで。
いつも通り長々と書いたが、まあ、蘊蓄抜きに楽しめる娯楽映画なのだろう。
宣伝文句から観る前に想像していた『神々 vs. 人間』という図式は無かった。
そこにあるのは“人間くさい神々に翻弄されながらそれに抗う英雄譚”の典型だった。果たしてリメイク版の人間は、何が理由で神々に反旗を翻したのか、私には理解出来なかった。
リメイク版のペルセウスは養父母と義理の妹を殺されたことによる、個人的な復讐心であるが。
そもそも神々が課した運命に抗うのも、信仰するのも神話においては普遍だろう。
何故かペルセウスはアンドロメダと結ばれず、復活したイオと伴侶になるようだ…
そして最後に一言物申す。
黄金のフクロウの事。
以前『ほかされていました』と話では聞いていたが、引っ張り出しておきながら、使わないとは何事か。
「置いていけ」の一言で一蹴。