映画『ゼロ・グラビティ(原題"GRAVITY")』感想

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公式サイト:
http://wwws.warnerbros.co.jp/gravity/

言わずもがな、宇宙空間でのサバイバルに戦慄する、素晴らしい作品だった!
地球の美しさを賛美するような映像と主人公の心理状態の対比が強烈だ。
その恐怖と葛藤は、『エイリアン(1979)』を初見で見た時の様に、暗闇の恐怖と孤独を強く意識させた。


(無)音

無音状態と、ノイズ音による、メリハリのある効果。

空気の無い宇宙空間での無音、それがもたらす緊張感。
それは『スター・ウォーズ(1977)』等、宇宙船が飛ぶ際に臨場感を出すために飛行音が出るSFが多かった為か、『2001年宇宙の旅(1968)』以来かも知れない。
そういえば、『スター・トレック(2009)』も無音状態だったか……(これを観た時、感心した)
音が無いが故に、音を聞き取ろうとして感覚が過敏になる。
その緊張状態を更に煽る、単純な旋律やノイズ音が入ってくる。
それはホラー映画に見られる手法だろう。
その効果によって、恐怖の臨場感が増していた。

孤独

死と隣り合わせの空間での“孤独”。

宇宙という、一般人には未知の空間でのサバイバル。
酸素が無く、重力も無い。
それは地球上の“過酷な環境”という定義を超えた場所。
人間が単身では生きられない場所だ。

一瞬でフリーズドライ状態になってしまったシャリフの遺体が全てを物語る。
(『ミッション・トゥ・マーズ(2000)』でのウッディを思い出す。)
通信手段の遮断、生存者が皆無という、生きている人間がいない状態に戦慄する。
アポロ13(1995)』のように、通信によるバックアップもない。

死に至る

必死になってヒューストン(ジョンソン宇宙センター)との通信を試みるライアン。
その過程でラジオを聞いた時の、コミュニケーションとは違う受け身の状態で自問自答する彼女に、前向きになってくれるのではないかと期待するも、彼女は死を選ぼうとする。

医療技師であるライアンは『6ヵ月の訓練しか受けていない』という。
パニックになり悪態をつく、彼女の行動に説得力を持たせている。
素人知識では、「宇宙飛行士はいかなる状態でもパニックにならないようにする」との話だが……

それ故に、マット・コワルスキーとの対比が強い。
「どんな事が起こってもパニックを起こしてはならない」という宇宙飛行士の姿が――
彼は己が死に直面しても、ライアンを怯えさせない言葉を選んでいる。

マットの言葉は象徴的だ。
「宇宙遊泳記録を更新。そしてこれからも更新し続ける。」
「ガンジス川の夜明けを見ろ。実に美しい……」
インドの聖なる河(三途の川)について語る姿は、彼の向かう先を仄めかしていた。

第三者

ライアンが生きる事を放棄しかけたその時、ソユーズの外にマットの姿が。
彼はハッチを開けて彼女の隣に乗り込む。

ぞっとするような、ホラー映画の状態のはずが、孤独からの解放と、マットの陽気な姿に、観ているこちらも安堵してしまう。

低酸素症のためライアンが見た幻覚、サードマン現象と呼ばれるものだろう。
サードマン: 奇跡の生還へ導く人 (新潮文庫)

「今、あるもので、いかにして生還する確率を上げるか」

マットの助言は、既存のシステムを発想の転換 で使うものだった。
これには目から鱗だった。

本当にマット(の幽霊)が現れ、彼女に助言したのかはわからない。
彼女が学んだ訓練から、今までの経験からの咄嗟のひらめきが、マットのヴィジョンとなって現れたのかもしれない。

だが、マットから差し出されたウィスキー(おそらく在るはずのないもの)を飲まなかった彼女は、ヨモツヘグリを回避し、生還できる。
冥界のペルセポネーのようにはならない事の布石のように思えた。

ライアンはマットに彼女の亡くなった娘への伝言を呟きながら、それを生きる事の宣言として前進する。

上記、マットの言葉やサードマン現象とも絡むのだが、信仰や宗教的概念がこの映画にもありそうだ。 それがSFの醍醐味であるとも私は思う。『プロメテウス』『クラウド・アトラス』然り。 これ見よがしに、ロシアのソユーズのシーンでは聖人の御絵が、中国の神舟には布袋?の置物あった。これらに“人間の信じる事で喚起される活力”があることを連想させる。 少し調べてみたところ、それについて言及されている方がいらっしゃった。

『ゼロ・グラビティ』わたしの肩の上の天使
http://k-onodera.net/?p=1118

上記によると、御絵は「聖人クリストフォロス」、置物は「弥勒佛像」であり、民間信仰の対象として最もポピュラーなものであるそうだ。

参考
クリストフォロス(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AD%E3%82%B9
弥勒菩薩(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%A5%E5%8B%92%E8%8F%A9%E8%96%A9

これらは、世界各国の人々が違う神を信仰しながらも、各々に超常的な力を信じ、それが自分を救ってくれるという、世界に対する希望、そして生きることへの執着を示している。

(中略)

大事な人間の死や、突発的なトラブルなど、生きることで人間は辛い目にも危険な目にも遭う。そのような圧力が、本作の原題”Gravity”(重力)の意味である。しかしそれに対抗する力が人間の内的世界にあることを、ときに死神に抵抗する守護天使として、または力強い行動という発露として示されることを、正面から映画は描いている

上記解説は的を得ている。

生還

大気圏に突入し、辛くも地表にたどり着いたライアン。
息を すること、
水、空気の流れ、鳥の囀り……
大地に足を付けられること。

大気と重力の存在を強く意識させる。
生あるものが存在する。
あらゆるものに満たされている、充足と安堵。

生還した彼女が、赤い土に手をつき立ち上がるシーンは、まるで人類最初の人間が生まれたばかりのようで、“生きている”ことへの声にならない勝鬨のようだった。

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