グローバルビジネスに役立つオペラの素養と楽しみ方
以前からオペラを聞きたくて仕方なかったのだが、最近、全く触れる機会が無くなっていた。
そのため、どうしてもきっかけを掴みたく、講演に足を運ぶ。これはその備忘録。
日本オペラ振興会(https://www.jof.or.jp/)による、オペラの魅力を紹介する講演会だった。
声楽家による生演奏もあったりと、充実した時間を過ごせた。
前半はオペラの魅力について、池田卓夫氏(音楽ジャーナリスト)と法眼健作氏(元国連事務次長,元カナダ大使)による講演。
オペラを好きになるきっかけから、オペラを通して得られた交流についても少々。
池田氏はオペラが社交場であることを強調。
そして日本において、オペラ(歌劇場)は社交場ではないと指摘していた。
池田氏は新国立劇場がヨーロッパの劇場と異なる点からもそれが現れているという。
クロークが正面から入ってきた時に上手にあり、側の壁に姿見が無い事など……
観劇には夫婦単位で来ること、身だしなみを整え、紳士が淑女をエスコートする――歌劇場は社交場であり、かつてはそこからビジネスチャンスが生まれた事を指摘していた。
最も、今のヨーロッパではコンプライアンスの関係で、歌劇場でビジネスの話は公には行われていないようだが……
その弊害として、歌劇場がマナーのない成金社会になってしまった事に苦言を呈していらっしゃった。
池田氏も続く法眼氏も、オペラの魅力は人間の生の声の魅力、素晴らしさだと語る。
そしでオペラの醍醐味は、娯楽であり総合的な教養を深めるものであると。
オペラを観に行く前に必ず勉強すること、キーワードひとつから、原作や時代背景など……学べることは多岐に渡る。
園田高弘著『ピアニストその人生』、小泉純一郎著『音楽遍歴』の引用からも、専門特化された分野にとどまらず、関心の幅を広げることの大切さを改めて感じさせる。
オペラの知識を深めるものとして、法眼氏は多田鏡子『新 オペラ鑑賞事典』(http://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-59367-8)を薦められていた。
ここで池田氏曰く「オペラ『オタク』になるべからず」
釘を刺していた(笑)
東洋、日本では西洋趣味・教養主義の一環のようなオペラだが、“日本オペラ”なるものも宣伝されていた。
オペラ『白虎』
http://aizu-opera.com/index.html
白虎隊の物語。
福島の復興支援イベントの一環のようだが、豪華なキャストや力の入ったオーケストラだという。
観てみたい。
後半では生演奏を披露。
【オペラ(歌劇)】
ヴェルディ『椿姫』より
〈花から花へ〉〈燃える心を〉
〈プロヴァンスの海と陸〉
【オペレッタ(喜歌劇)】
シュトラウスⅡ世『こうもり』より
〈僕はお客様を招待するのが好き〉
レハール『メリー・ウィドウ』より
〈ヴィリアの歌〉〈唇は黙しても〉
2013年はヴェルディとワーグナーの生誕200周年だった。
この頃私はワーグナーの方に熱を上げていたのだが……
良い機会になったので、改めてイタリア・オペラも聴こうと思った。
オペレッタは分かりやすく、日本語で歌ってくれた。
それを聞いていて、言語の壁というか……意味内容を理解できることでより魅力が伝わると改めて思った。原語で理解できたらより深まると思った。
〈僕はお客様を招待するのが好き〉は、宴の席での無礼講を歌っているので、砕けた感じが面白かった。
歌い手が聴講席の間を歩いてくれたりと粋な演出をしてくれた。
一時期、日本で三大テノールがもてはやされたが、バリトンも素晴らしいと思う。渋くて。
ちょっと勿体無いと思ったのは、会場の床がカーペットだったので、音の反響が吸収されてしまった事。
それでも間近に声楽家の方々がいらっしゃるので、空気の振動を肌で感じた。
原題は"La traviata(道を踏み外した女)"の意であることは有名。
美輪明宏氏は著書の中で、「『椿姫』のように生きなさい」と言っていた。
その無償の愛を指してだ。
私は同時に、社会通念に屈せず、自分らしく(自分勝手ではない)あろうとした凛々しい姿に惹かれる。
椿姫に暴君や魔王のような完全な悪役はいない。
この物語の悲劇の所以は、“社会通念に殺される真実の愛”だ。
主人公達の愛を妨げるものは社会通念(道)を象徴する父親だ。今様の言葉で表現するなら、それは“毒親”だろうか。
その時代の問題などを、オペラは浮き彫りにする。
時代を経ても愛されるのは、音楽の素晴らしさや分かりやすい物語だけでなく、何か人間の本質的な問題を指摘するためだろうとも思う。