映画『トライアングル』感想
納涼企画的映画感想。
公式サイト:
http://www.triangle-movie.com/
あらすじ
ヨットセーリング中に嵐に襲われたジェスらは、目の前に現れた大型客船に命からがら乗り込み難を逃れる。しかし、船内には人がいた形跡があるものの誰もおらず、探索していると覆面をした人物が現れ次々と命を奪われていく。1人生き残り甲板に逃げ出したジェスは、転覆したヨットから客船に向かって助けを求める自分たちの姿を目撃する――
無限地獄に戦慄し、白昼夢のような映像美を堪能する。
高い太陽、青い海に浮かぶ豪華客船。美しい光景の中で“業”とも言える因果のループ世界に囚われる恐怖。
ホラー映画定番の暗闇に危険なものが潜む恐怖ではないことが魅力だ。
物語と映像の醜悪と美のギャップが互いを一層引き立てている。
舞台となる豪華客船"AEOLUS"はギリシア神話の風の神に由来する。
参考:アエオロス
http://www.h6.dion.ne.jp/~em-em/page134.html
作中にも語られるがこれはシシフォスの物語に由来する事を指し示す。
参考:シーシュポス(Wikipwdia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%9D%E3%82%B9
シシフォスは偽装・欺瞞の代名詞であり、永劫の罰を象徴する。
自然の理に反し己の死を欺いた罪から、冥界で岩を山頂に運ぶ罰を受ける事になった。だが山頂にたどり着くと岩はアエオロスの風によって麓に押し戻されてしまう。そのためそれを繰り返す。
賽の河原の系譜の物語だ。
映画の中でカモメの死骸や船の一角で積み上がるサリーの遺体はまるで石積みのよう。
ではジェスの罪は何であろう?自閉症の息子への体罰か死に至らしめてしまった事だろうか?(“死んだ子供”というキーワードは賽の河原のイメージを強くさせる)
それだけでは無いだろう。彼女の罪はやはりシシフォスと同じ“隠蔽”だ。
“殺人”と“己の死”を偽っている。
ループ世界の彼女は息子を虐待する自分の姿を見て、虐待する自分を殺す。その様を息子に見られると、“死んだ自分に代わって”あやすように「これは悪夢よ」と言い聞かせる。
交通事故を起こし息子を失い、港で息子の所在を聞かれると「学校に行っている」と偽った。
豪華客船でも友人達を殺し、その遺体を海に捨て“殺人が無かった”ようにしてしまう。
無かったことする事で再び繰り返される、無限ループとなっていく。
船が死体で一杯になれば終わるのだろうか?冥界に死者を運ぶカロンの渡し舟のように。
だが死体を残しても不吉の暗示のように飛び回るカモメ達が食べ尽くして何も残らないだろう。
もし、この無限ループから脱出するには殺人を起こさない/起こさせない事にあるのかも知れない。事故とはいえ友人・に重症を負わせたのは彼女で、ループする彼女はそれを近くで見ているだけだったのだから。
だが、ジェスには殺人をくい止める意思も認める意思も無い。