ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860-1900
ラファエル前派展に続く、耽美な世界を堪能する展覧会。
絵画の多くには、それまでの伝統的主題に沿ったものは無い。
「美」を表現する世界だった。
下記、気になった作品(一部)
ウィリアム・ド・モーガン《大皿》
入ってすぐの場所に展示された、孔雀の器。
円形の中に、百目の尾羽がダイナミックに配されたそれは、
ラスター彩が施され、見る角度によって玉虫色、七色に輝く。
孔雀の羽そのもののように。
フレデリック・レイトン《パヴォニア》
ラテン語で美の象徴である“孔雀”を意味している。
力強い眼光に魅せられる。
この絵の何が衝撃かといえば、「伝統的な美人」とは違うことだ。
黒くはっきりとした眉、黒い瞳。欧州からは珍しくエキゾチックな雰囲気。
多様な文化のあり方を肯定する現代。
まして日本では黒髪は当たり前で何の違和感も無いが、当時は美しさよりも驚きの方が大きかったのでは、と想像する。
芸術運動にとどまらず、唯美主義はライフスタイルにも取り入れられる。
肖像画や調度品、ジャポニズムの流行などを取り入れた和洋折衷の豪華絢爛な雰囲気。
フレデリック・レイトン《母と子(さくらんぼ)》はそれを意識させる。
世田谷美術館で催された、『オルセー美術館展』のような、ライフスタイルとの関連を強く意識させた。
エドワード・バーン=ジョーンズ《皿「オルフェウスとミューズ」》
こちらもラスター彩の施された器だった。
赤い線に沿って見える玉虫色は、神秘的だ。
『ヴィクトリアン・ヌード展(2003年)』の際に見た、《花婿、花嫁、悲しきアモル》も展示。
ラファエル前派展にあった《ミティリニの庭園のサッフォーとエリンナ》を描いたシオメン・ソロモン。
彼の同性愛描写は背徳的でありながら、人を惹きつける美しさを漂わせる。
後半には唯美主義への批判にまつわる作品が展示されていた。現実逃避気味の変人扱い故だろう。
その中には『サロメ』の挿絵で有名なビアズリーの風刺画があった。高い鼻の特徴をよく捉えていた(笑)
フリーペーパー『MSEUM CAFE MAGAZINE』2014年2月号が『ザ・ビューティフル』特集だった。
内容は展覧会コラムと、唯美主義が生まれた時代背景について、イギリスとフランスで起こった芸術運動の年表。
関連コラムとして漫画『黒執事』が紹介されていた。
華やかなライフスタイルと耽美な世界が当時の“雰囲気”を象徴する事、上流階級の贅を尽くした生活様式には、貧富の差などの暗い影が付きまとっている事を示唆していた。
面白いところから切り込んでくるフリーペーパーである。
唯、美しく――
ラファエル前派の絵画に比べ、そこに寓意や教義は無い。
作品の主題、その意味内容に思考を巡らせるだけではない視点。純粋に美しさに対して感動する。
その感情から、対極的だと思っていた印象派にも通じるものがある事に気付く。
印象派が自然の風景の美しさ、そ の“印象”を描いたものなら。
カタログは画像も大きく、章立て毎にページに意匠があしらわれており、高級感を演出している。
展覧会の時代が提案したヴィジョンそのものだ。
ワイルドやビアズリーの功績、今でこそ当たり前の美しい装丁本も、唯美主義の時代に生まれる。
最近、19世紀末のイラストレーターに纏わる装丁の美しい本が、多数出版されている。それにも引けを取らない。
美術館の会場から全て、唯美主義を堪能できる良い展覧会だった。