ラファエロ展
上野・国立西洋美術館にて。
http://raffaello2013.com/
~2013/6/2まで。
今年も『日本におけるイタリア』年らしい。その企画の大規模展覧会の一つでもある。
『Itary in Japan』http://italyinjapan.com/
(同時に、『日本におけるスペイン年』でもある。先日の『エル・グレコ展』はその一環。)
この展覧会の目玉である≪大公の聖母≫は実に印象深い作品だ。
暗闇に浮かび上がる聖母子像。背景とのコントラストも相まって光輝くような慈悲の様相を持つ。
レオナルドの影響であろう人物の輪郭がぼかされて表現されており、当時としては画期的な描き方をしている――
私はそんなイメージを抱いていた。その本物を拝見できるとあって、実に楽しみだった。
勿論、それ以外にも目当ての作品が多々あった訳だが。
ヴァチカンからの仕事を請け負ったので、ギリシア神話の主題よりもキリスト教的なるものが多いような気がした。
私には彼もまた“天使の画家”というイメージがある。
ラファエロ――彼の名は大天使ラファエル(ヘブライ語で”神は癒し”)に由来する。彼の描く天使像は健康的で美しく、見ているとそれこそ癒されるような気がするためだ。
よく気味悪がられるが、擬人化された神を囲む、幼児の顔だけで表現されるケルビム(智天使)単体でも可愛らしい。
そのためか、今回の展覧会で気に入ったものは天使ばかりだった……
ラファエロ・サンツィオ《天使》
元は祭壇画の一部だったが、切り取られカンヴァスに移し替えられたものだ。
血色がよく中性的な容姿は美しい。赤いマントを羽織った緑の翼の天使。色彩豊かで惚れ惚れしてしまう。
一部でこんなにも人を惹きつけるのだから、元の祭壇画はどんなに素晴らしかったか――そんなことを想像してしまう。
ラファエロ・サンツィオ《大公の聖母》
前にすると、敬虔な気持ちにさせられる、神々しい女性像だ。
タイトルにある“大公”――トスカーナ大公フェルディナンド3世は‘18世紀末、フィレンツェがナポレオンに占領された激動期にこの絵を手に入れ、亡命中も肌身離さず大切にしたといわれて’いるそうだ。
その気持ちが解る気がする。
この黒の背景は後世に塗られたものである、とのキャプションがあった。
……私が前衛的だと思っていたものはラファエロの真筆では無かった。
因みに背景には窓とその外の風景が描かれていたらしい。
損傷がひどく、転売するにあたって黒く塗りつぶされた、と――
17、18世紀はペストの流行もあり、死を想う美術が流行し、黒背景の聖母像が流行っていた。その頃に塗られたようだ。
どちらが良かったのだろうか。
おそらく極彩色の光の中にいた聖母子と、今の闇の中で輝くような聖母子。
フェデリコ・ズッカリ(ラファエロ作品に基づく)《牢獄から解放される聖ペテロ》
参考作品だが、その神々しい描写に魅かれた。
元はラファエロがヴァチカン宮「ヘリオドロスの間」に描いた同主題のフレスコ画で、ラファエロは3本の鎖でつながれて目をつぶって眠りにつく聖ペテロを描いたが、このフェデリコ版は天使の聖なる光を見つめる聖ペテロとなっている。
手前の暗闇の中で眠っている兵士達との対比は、神の奇跡を見るものと見ないもの、光と影、救いと……様々な隠喩を含んでいるようにさえ思えた。
ラファエロ・サンツィオ《エゼキエルの幻視》
これも見ておきたかった作品の一つだ。
エゼキエルの幻視をかくも美しくまとめたこの作品は、他に類を見ないのではないだろうか。
キャプションには4つの生き物が新約聖書の福音書書記者4人を表すことを書いていた。
ラファエロの時代ではこの解釈で間違っていないのだが、聖書の書かれた歴史から見れば最も新しい『ヨハネの黙示録』のイメージから来ている。
新約聖書は紀元1世紀頃に書かれ、エゼキエル書が書かれたのは紀元前5世紀頃だ。
エゼキエルの幻視は下記のようだ。
またその中から四つの生きものの形が出てきた。その様子はこうである。彼らは人の姿をもっていた。
おのおの四つの顔をもち、またそのおのおのに四つの翼があった。
その足はまっすぐで、足のうらは子牛の足のうらのようであり、みがいた青銅のように光っていた。
その四方に、そのおのおのの翼の下に人の手があった。この四つの者はみな顔と翼をもち、
翼は互に連なり、行く時は回らずに、おのおの顔の向かうところにまっすぐに進んだ。
顔の形は、おのおのその前方に人の顔をもっていた。四つの者は右の方に、ししの顔をもち、四つの者は左の方に牛の顔をもち、また四つの者は後ろの方に、わしの顔をもっていた。
彼らの顔はこのようであった。その翼は高く伸ばされ、その二つは互に連なり、他の二つをもってからだをおおっていた。
(エゼキエル書 第1章 1:5~1:11)
日本聖書協会『旧約聖書』1955年
額面通り受け取れば、「正面に人の顔があり、右側に獅子の顔があり、左側に牛の顔があり、うしろに鷲の顔がある。4つの翼を持ち、人間の手が四方に出ていた。」ということになる。凄い造形だ。
細かい部分を割愛するが、さらにその生き物には4つの輪があったり、その生き物が神を囲んでいたようだ。
この難解なヴィジョンを“新約聖書の福音書書記者の象徴である天使、翼のある獅子、翼のある雄牛、鷹に支えられた擬人化した神”に噛み砕いてまとめ上げたのだがら、そのイマジネーション、デザイン力に感嘆してしまう。
三大巨匠の一人であるラファエロの絵画は、今でも学ぶべき所が多くある。
『エル・グレコ展』よりも作品の点数は少ないが、内容が充実しており見応えがあるものだった。
カタログが2種類展開されていた。小さいものは解説が無く、記念として購入するには丁度良い。
『エル・グレコ展』でカタログを購入し、流石に収納場所が限界である……
私は小さいものを購入した。
小さいカタログの表紙にも使われている、この展覧会の鮮やかなブルー。素敵だ。