ラファエル前派展
公式サイト:
http://prb2014.jp/
六本木・森アーツセンターギャラリーにて。
~2014/4/6まで。
『ミレイ展(2008)』『ターナー展(2013~2014)』に続き、テート美術館のコレクション展覧会。
質の良い作品が一堂に会しているので、私は大満足
美しい女性達。
神話・聖書・文学にインスピレーションを得ていながら、当時の美術慣例に囚われない描き方をした、ラファエル前派の展覧会。
全ての作品に感想を書きたい位に感銘を受けたのだが、それは自粛。
『ミレイ展』以来の《オフィーリア》
記憶の中ではもっと大きなカンヴァスだと思っていた。
緻密に描かれた草木と花言葉に込められた世界観の深さが、私にそうした印象を与えたのかも知れない。
フィクションであるはずのシェイクスピアの一幕が、現実になっている。
後のオマージュの多さを考えるとその衝撃は言わずもがな。
フォード・マドックス・ブラウン《ペテロの足を洗うキリスト》
キリストの献身、謙虚さを強く意識させた。
これはキリスト教が本来求めていた精神だろう。
カタログによると、この絵は元々上半身裸だったようだが、キリストが裸なのは不適切であるという批判(磔刑の時は上半身裸なのに…)を受けて、アラブの上着を着せたという。
映画『プロメテウス』考察――“信じる”という人間性で同主題《弟子の足を洗うキリスト》について考えていたので、気になった。
ダンテ・ゲイブリル・ロセッティ《見よ、我は主のはしためなり(受胎告知)》
伝統的な構図や解釈にわれていない。
天使の訪問、受胎告知、処女懐胎という衝撃に驚き、壁際に身を寄せているマリア。
寝起きの夢うつつの状態で、白百合を凝視している。
白く清楚で明るい画面。
質素な調度品や召し物は美徳のように表現されている。
ロセッティはダンテ『神曲』に因んだ作品もある。
イタリアの亡命詩人の父から、詩聖の名を名付けられた彼が、『神曲』からインスピレーションを受けるのは至極当然だった。
《ダンテの愛》は抽象的ながらもその世界観を端的に表現していると思うので、私は好きだ。
駅の広告にあった「スキャンダル」というキャッチコピー。
様式化した作風しか認めない、当時の画壇に物議を醸した点もさることながら、その人間関係がゴシップでもある。それに掛けている?
ラファエル前派の画家とモデル達の関係がパネル展示されていた。
モデルの女性達は皆美しい。
結婚や愛人関係が図で明記されると、リアルだ。
ラファエル前派作品には互いに同じモデルを描いたものがある。
作品への影響も窺わせる。
彼らの関係は、形骸化した結婚への反旗か、兄弟愛の延長としての聖なる愛を模索していたのだろうか?
エドワード・バーン=ジョーンズ《愛の神殿》にそれを思う。
モリスの詩『愛さえあれば』にインスパイアされた未完の絵。
この詩は「全てをなげうって愛を求めて旅立った王が、愛を見いだし、他に何も持たないにも関わらず、他に何もいらないと気づく」物語だそう。
そういえば、昨年『バーン=ジョーンズ展』があった。
神話的な世界観だが、シャヴァンヌの様な神話的理想郷とは違うものがここにはある。
シオメン・ソロモン《ミティリニの庭園のサッフォーとエリンナ》
モローもサッフォーを多く描いていた。画家にインスピレーションを与えた女詩人。
“Who wrongs thee, Sappho?
If now she flies thee,
Soon shall she follow;–
Scorning thy gifts now,
Soon be the giver;–
And a loth loved one"“Soon be the lover."
So even now, too,
Come and release me
From mordant love pain,
And all my heart’s will
Help me accomplish!「一体誰が汝を傷つけているのか、サッフォーよ?
もし今彼女が汝から逃げていても、
直ぐさま彼女は付き従うであろう。――
今汝の贈り物を拒むとしても、
すぐさま贈る人になるだろう。――
そして 厭々ながら愛される人は」「すぐさま(汝を)愛する人になるであろう」
ですから、直ぐ今にも、
私のところへお越しになり私を解放して下さい
鋭く激しい恋の痛みから、
そして、心からお願いします
私の恋の成就に力をお貸しください!
同性愛描写がとても神聖な雰囲気を伴っていて、魅せられる。
精神的な愛、プラトンのプラトニックにも係るような……
シオメン・ソロモン自身が同姓愛者だったらしい。
昨年制定されたロシアの法律の事もあって、気になった。
愛について考えた時、相思相愛なら非難される理由はないと思うのだが。
大学生の頃に図書館でよく読んでいた『世紀末美術の楽しみ方』に掲載されていた作品の本物を見ることができて感無量だった。
ラファエル前派の主要画家の良い作品が見れる、内容が実に充実していた展覧会だった。
2014/9/30追記
上記本がこの展覧会の内容を補完してくれる。
モデルだった美女たちの結婚や愛人関係の相関図や、ラファエル前派に纏わる人間関係の相関図が掲載されている。
“ラファエル前派兄弟団”と“後期ラファエル前派”の画家の理念の違いなども解説されている。
展覧会に行く前に読んでおくべきだった……