貴婦人と一角獣展
公式サイト:
http://www.lady-unicorn.jp/
六本木・国立新美術館にて。
~2013/7/16まで。
念願のタペストリーを、日本で拝見できるとは思わなかった。
門外不出だと思っていた。
所蔵しているフランス国立クリュニー中世美術館が展示改装のため、貸し出してくれたそうだ。
赤い生地と青・緑・金の色の刺繍がとても印象的で、漂う高貴さは言わずもがな。
意匠化された自然の図案が美しい。
「アンヌ・ド・ブルターニュのいとも小さき時禱書の画家」が下絵を描いたという。
このタペストリーは寓意画だ。
6枚は《触覚》《味覚》《嗅覚》《聴覚》《視覚》の五感と《我が唯一の望み》という第六感を表している。
《触覚》は切断されていると思われる。他と違って図柄が中央に無く、左側が切り刻まれていることは間違いないらしい。
それが痛みによるために切り取られたのかは私には判らないが…
どの様に修復したのか判らなかったので調べてみたところ。織り直したようだ。
材質は羊毛と絹。
過去の修復で国有になったときにゴブラン織(糸に麻、緯糸に羊毛か絹を用いた絵模様織り)を取り入れた。
《貴婦人と一角獣》が何の寓意なのか諸説ある訳だが、結婚や愛の寓意、宮廷風の愛の文脈で語られている事が指摘されている。
“一角獣は愛される純潔な女性の分身、狩りをする者(男性)によって捕えられる”という。
クロイスターズ美術館の《一角獣の狩り》の連作タペストリーとも関連があるだろう。
http://www.metmuseum.org/visit/visit-the-cloisters/
この第六感とは何を指示しているのだろう?
会場に展示されたその他の作品やパネル展示は、その足掛りとなるものだ。
多産の象徴である兎や動植物に囲まれた牧歌的な雰囲気、恋歌のような印象があるが、それだけではないようだ。
連作を総括してみると、五感を示した上で更に内面の(あるいは上位概念としての)心を表現しているようだった。
参考作品《ロベルテ家の一員の紋章と標章の入ったタピストリー》には"AUREA MEDIOCRITAS(黄金の中庸)"という言葉が添えられていた。
同じく参考作品の《運命の女神たち》は死や病に対する名誉の勝利を物語るものの一部らしい。
特に中世ヨーロッパ期の芸術の中には教訓や寓意が込められている。
このタペストリーも言わずもがな。
哲学的であり、同時に自然科学の先駆けのような人間の感覚についての言及。
最後の壁に賭けられた《算術》は七自由学芸の一つだ。
参考:リベラル・アーツ(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%99%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%84
‘算術という数に関する「学芸」の本質とは、美の源となる比率関係を論証する能力’だ。
現在は直結されにくいイメージがある算術(幾何学)が哲学・芸術との関係が深い件については割愛させて頂くが、神より賜った自然が齎した知識が学芸で、それを持って人間と何か知ろうとしている。
知覚できる五感を認識した上で、それを制御しようとする心に気付く。
参考作品は道徳や学芸の象徴していた。それらが《貴婦人と一角獣》に繋がる。
会場のキャプションには五感を超えた内的感覚、すなわち自制の寓意を示唆するものもあった。
《我が唯一の望み》とは何か?
結婚が愛の成就の象徴とする解釈、個人的な解釈だが同時に自制の大成として徳のある人間に至ろうとしているように思えた。
絵の中で侍女の持つ箱には宝飾品が描かれている。それは引き出されたものか、仕舞われるものだろうか?
この一連のタペストリーを前にして、何か訴えかけられるものがあった。
五感の感覚を刺激される。
香道をしている時、何かに閃く瞬間がある。それは筆舌に尽くしがたく…
それが第六感のかも知れない。
この経験とイメージがこのタペストリーと結びつく。
知人の女性が以前、現地でこのタペストリーを見て感銘を受けたと言っていた。
それが解った。
悩んでいた事に対して、何か腑に落ちるものがあった。
明日からまた頑張ろう。
そう思った。