金子國義 悪徳の栄え
Bunkamura ギャラリーにて。
2/14まで。
2年ぶりの個展。
リトグラフに手彩、そして久しぶりに拝見する油彩画。黒い背面は主体をより引き立てると同時に、背徳感を強くする。
コルセットで腰を締め上げた女性、破れた服をまとう男性。
白い下着は暗い画面に映え、エロティックである。
舞台、サーカスや場末の見世物小屋を直ぐ連想させる構図。
しかし躍動感よりは、私は硬派な印象を受ける。
トークショーが行われていた。
途中からになってしまったのが残念なのだが…
聞こえて来たのは画家の半生。
國義の名前の由来。
國への義を、國のためになる子であるようにという意図が込められた名だったと語る。
しかし当人は絵好き、日舞好きで化粧をしたりしていたとの事。実に私的だ。
「お前、変だよ」
兄の言葉は今でも鮮明に記憶していらっしゃるそうで、そんな自分が公の場で個展を開いているので、
「ざまみろ」
と思ったそうだ。
画家が抱えるコンプレックスを見た気がした。
《The Book》についても語られた。
言わずもがな、レオナルド《最後の晩餐》の絵画へのオマージュである。
ご自身はこれをインスピレーションのみで描いていたようだが、アシスタントに指摘され、ナイフを描いたエピソードを語っていた。
レオナルドの《最後の晩餐》にはユダの背後にナイフを持った手が現れている。一般的にはペトロの右手とされているそれ。しかし、この手が誰のものなのか、判然としないのが現状。気付かれない不気味さが、このナイフにあると、改めて思った。
それを描いた金子氏の意図を伺えばよかった…
十二人の弟子は不良なのだという。不良3人をモデルにしたそうだ。
同時に、自身の姿でもあるのだろう。
だからといって、自己中心的に作品を創るのではなく、“こうしたら、(見ている人は)喜ぶだろうな"と思いながら描いているとの発言。
だから私的な世界観であっても認められるのだろうと、当たり前のように感じた。
その他に三島由紀夫、澁澤龍彦、四谷シモンらとの交流の話も少しされた。
タナトスとエロスのエネルギーで生と名声を得た画家の一人だと改めて思う。いや、芸術全般ばそうだろうか。
規範から少しずれる事で貫く自我。そんな画家の姿を見た。
サイン会があったので、頂いた。
澁澤事典もあったのだが、私の中で金子氏は『不思議の國のアリス』『鏡の國のアリス』であったので、そちらにサインを頂いた。
サインを頂いたとき、「氏の描く絵の人物の服は、傷も付いていないのに、破れていますね」と言った所、
「うん、破れているのが好きだから」
と嬉しそうに答えてくださった。