ヘンリー・ダーガー展 アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く『非現実の王国で』

白黒イラスト素材【シルエットAC】
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ヘンリー・ダーガー展 アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く『非現実の王国で』

ラフォーレミュージアム原宿(ラフォーレ原宿6F)にて。
http://www.lapnet.jp/event/event_l110423/
~2011/5/15まで。

私にしては珍しく、開催初日の展覧会鑑賞。
以前映画『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』を観に行った。
そこで描かれたダーガー像とは異なるものを垣間見れた。
映画では、彼の作品、『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコーアンジェリニアン戦争の嵐の物語(以下、『非現実の王国で』)』の原画を元にしたアニメーションと、彼が暮らしたアパートメントの家主、近所の住民達からのインタビューによる構成だった。
そのためアパートメントのドア一枚を挟んで彼の部屋、ひいては『非現実の王国で』を客観的に見るような映画であった。

しかし今回は記録に残る彼の生い立ちと感性から、『非現実の王国で』を読み解くもののようなので、関心を持った。
生涯にたった3枚の肖像写真しかなく、他者との交流も無く、記録も乏しいと聞いていたのでどんな新しい発見があったのかと期待していた。

それによると、ヘンリー・ダーガーはいわゆる“軍事マニア”であり“気象マニア”であったとの事。
特に“アメリカ南北戦争”への拘りや“嵐”への執着が彼の世界に大きな影響を与えていた。
その指摘は今まで得られなかったので勉強になった。

確かに『非現実の王国で』における兵士達は皆、騎馬隊、それもアメリカ南北戦争の写真や絵画のトレース、コラージュが殆どだった。(大戦を経ているにもかかわらず)
そして文章には嵐の件が度々表れる。挿絵の背景の描写、極彩色豊かな作風も、自然への関心から来るものかも知れない。

今回の展覧会では『非現実の王国で』の挿画64点が展示。
殆どが3mもあるカンヴァスに描かれていた。その大きさにも圧倒される。
『非現実の王国で』の物語と挿絵の一部をまとめた画集が出版されているが、横長であることをいぶかしんだものだが、実物を見ると頷ける。

『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』
ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で

今回の展覧会で一番気になったのは、ブレンゲンだった。

ヘンリー・ダーガー《キラキラ輝く(子供顔の)ブレンゲン》

キラキラ輝く(子供顔の)ブレンゲン
蛇の身体で翼を持つ人面の生き物はダンテ『神曲』におけるゲリュオンを思い出させた。
…こういった生き物は神話によく現れるが、何かにインスパイアされた訳でもなく、純粋に、原始的な気持ちで想像の世界に在るとふと現れるものなのだろうか。そんな想像をしてしまった。
ヘンリー・ダーガーの色彩感覚は鋭い。そう思った。

そういえば彼のヴィジョンに、今公開されている映画『Angel Wars(原題"Sucker Punch")』がリンクする。

抑圧された世界、精神病、空想の世界で戦う少女達というキーワードがリンクした。空想の世界で生きているという所も――

もしヘンリー・ダーガーが生きていたなら、彼は喜んで観に行っただろうか。
『非現実の王国で』では残酷な子供への拷問・虐殺シーンが描かれている。
そうすることで社会への、神への抗議を露にしていた。
抑圧されたエネルギーは内側へと収束し、形を成して紙の上に現れる。
残酷な描写は現実世界で成し得ない報復でありながらも、昇華される血の流れの美しい赤。
そこに映画との共通項を見いだした気がする。

ヘンリー・ダーガー個人の多くの謎と、極彩色豊かで残酷な世界が見る人を魅了して止まない。そんな展覧会だった。

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