少女幻想綺譚 その存在に関するオマージュ
Bunkamura Gallery
2009年5月13日(水)~20日(水)
http://www.bunkamura.co.jp/gallery/090513shoujo/index.html
数多くの作家が参加されているので、非常に見ごたえがあります。
宇野亜喜良、金子國義、四谷シモン、山本じんら大御所から、若手作家まで。
以下、気になる作品の感想。
町野友昭《ISORA BELLA -L.O.Vinciの模型Ⅳ》
中央に陰毛の無いすらりとした肢体の少女の裸体像。中世の写本に出てきそうな、一角と鳥の足を持つ合成獣が足元に、向かって左には髑髏が力学の機械の様なものからぶら下がっている。
中央の生と性にあふれた少女像と少女をとりまく非現実・死を連想させるものの対比が美しい。
真条彩華の現代的なイラストも綺麗だと思った。これは、私には画家の理想の少女像というよりも、少女が理想とする女性像のように思えた。
四谷シモン《少女の人形》
言わずもがな。この人形との再会は10年ぶりくらいだろうか。
小田急美術館『四谷シモン 人形愛』以来だと思う。
赤いドレスと赤い唇。それらがこれでもかと言わんばかりに女性性をアピールしてくるように思える。
宇野亜喜良《少女からの手紙A》《少女からの手紙B》
先日、同タイトルの書籍が出たばかり。
カンヴァスに描かれた、架空の国から来た架空の手紙。
絵に物語、メッセージがあるそんな“絵手紙”は、見ている人間も架空の国に連れて行ってしまう。
北見隆《DRINK ME Ⅰ》
オブジェ。『不思議の国のアリス』の本の中央がくりぬかれ、その中に小瓶が納まっている。
隣に配されたアリスの肖像と共に、意味深な緊張感が漂っている。
飲むか、飲まないか、選択を迫られているような……
建石修志《Sibyliaの午後》《駒鳥は春を嘆く!》
過日見に行った建石修志展にもあったもの。コラージュ的な構成の中、記憶の断片を集めるような思いにさせられる。
金子國義《O嬢の物語》
アングラ文学の最高峰。万歳。
逆さにされ、足を広げる女性。その後で、彼女の足を掴み同じだけ足を広げて立つ女性。股間が丁度重なるようになっており、全体にXの形を取っているシンメトリックさが印象的。
Xは染色体のそれのようにも思えた。
東逸子《MEDIUM-Ⅰ(silvia)》《MEDIUM-Ⅱ(fonsia)》
ラファエル前派的な、自然の幻想美の中にいる少女像。その洗練された雰囲気は神秘的で、見ていて心が安らぐ。性ヤグロテスクを匂わせる他の作品とはまた逸脱した雰囲気。
桑原弘明《つぶらな光》
現代だから出来る作品と言うべきか。電子機器を使った作品。
ボタンを押して小さな箱を除いてみると、そこには小さな部屋が。
少女らしい部屋の床には真っ赤なリボンがある。つぶらな光が浮かび上がらせたそれは、物で少女を表していた。
山本じん《petitte》《静かなもの(高田喜佐に捧ぐ)》
これに魅かれた。
少女の足だけ描かれたカンヴァス。靴と靴紐のみ彩度がある。まるで新品のよう。しかし、履いている靴下は擦り切れ、一方には脚に茨が巻きついている。その壊れそうな危うい雰囲気が、“少女”という特異な存在をよく表していた。
山本タカト《鼓動》
こちらもまた言わずもがな。解体されたような体。死を暗示させる髑髏。首だけのような少女の後頭部からは光輪があり、聖性さを意識させる。
千之ナイフ《かごめかごめ》
この方の作品を“アート”として拝見するのは初めてかもしれない。
ホラーとエロティックな漫画を描かれているので、作品は知っていた。男性漫画家のような生々しさはではなく、女性漫画家の華奢な描写でも無い。私には丁度良い描写の作風なので、実は好きだったりする。
少女幻想綺譚を踏まえた上での日本の古典奇譚の系譜。
白く美しい少女と白狐の面。座敷。暗い画面でも無いのに、妖艶さがある。
他、丸尾末広、佳嶋らの作品も展示されている。
ゴス、耽美という言葉に魅かれる方、<マリアの心臓>や<ヴァニラ画廊><Parabolica-bis>がお好きな方、トーキングヘッズ叢書を読まれる方にはたまらない展示会だった。
全体の傾向としては、矢張り思春期の少女特有の気性の危うさや性の目覚めを意識させるものが多かった。
形状としてはアリスを連想させるもの(テニエル画の金髪、ルイス・キャロルの撮ったアリスの写真のボブで茶髪)、日本懐古趣味から来る黒髪おかっぱの少女が多いように思われた。
そして彼女達が遊ぶ、生きる幻想の世界。それは非日常の空間。
サブカルチャー/アングラとも言うべき分野の芸術家が渋谷の真ん中にあるギャラリーで展覧会…何だか不思議な気がした。
今回のDM、黒地にレトロ感漂うフォントで展示会タイトルと参加されている作家の名前のみというもの。
その方が世界観を固定されないので、展示会に来た時、個々の作家のイメージに入りやすい。しかし…フォントの装飾、ピンクのグラデーション以外に何か表現できなかっただろうか……