アール・ヌーヴォーの絵葉書展

白黒イラスト素材【シルエットAC】
JUGEMテーマ:美術鑑賞
アール・ヌーヴォーの絵葉書展

L’Art Noveau format reduit
宮後年男コレクション 凝縮されたアール・ヌーヴォーの世界

銀座・十字屋にて。
http://www.jujiya.co.jp/
2010/3/28まで。

私も骨董品屋でアンティーク絵葉書を度々見ているが、上質なコレクションだった。絵葉書が普及したアール・ヌーヴォー期のものを中心に、女優のプロマイド、ポスター広告、オペラを主題にしたものから日本国内の作家のものまで。

アンティーク絵葉書の印刷技法は版画――木版画やリトグラフ(石版画)である。
当時にもオンデマンド印刷はあったが、やはり版画のはっきりとした線や色彩は版画の方が勝る事を改めて実感した。

備忘録も兼ねて。
官製はがきの始まりは1869年、オーストリア・ハンガリー帝国郵政省が発行した「コレスポンテンツ・カルテ」がはじまりとの事。
日本では明治三十三年(1900)私製葉書が許可される。
黄金期は1898-1918年。
それは丁度アール・ヌーヴォー期にあたる。
美術史としても非常に興味深いものがありました。
画家たちの、自身の絵を普及させる試みとしても注目があったようです。
手頃な販売物として、また、コレクターが生まれ需要があったため。

<花と女性>
アール・ヌーヴォーのデザインでは外せない意匠。
大女優サラ・ベルナールやイベット・ギルベールらのプロマイドを兼ねたものから美麗なアイコンとしての女性像や寓意像のようなものまで。

一番気になったのが、ルイジ・ポンパルド(1879-1953)の作品。
《恨み(HAINE)》《愚かさ(STUPIDITE)》《悲しみ(OEUIL)》
他の画家・作品が華やかなものであるのに対し、ネガティブな印象を受ける題材。鬼気迫り、陰鬱で、悲壮な女性の顔が、飾り罫に囲まれ花が添えられている。
こういったものが一般に、市場に出回った事に驚いた。
会場にコレクターがいらっしゃったので、お話しを伺った所、これは画家の(販売目的の)絵画としての試みであろう、との事。
手紙を書くための道具、手頃な広告としてだけでなく、コレクターへの手頃な絵画としての絵葉書は、当時から考えられていた。

<日本のアール・ヌーヴォー>
‘ジャポニズムが影響を与え、アール・ヌーヴォー様式となり逆流して再び日本に帰ってきた。明治時代のハイカラ文化としても流行したアール・ヌーヴォーの作品’
竹久夢二は絵葉書など手頃なアイテムによる自身の作品のグッズをつくり、支持を集めたが、その辺りに影響を与えたのかもしれない。
作者不詳のものも多かった。
印象派やラファエル前派の絵画の影響を受けていると思われるものがあった。それらはアール・ヌーヴォーと独自の合致をし、日本の異国情景を思わせた。
日本のそれは模倣、もといオマージュが多い気がする。寓意画からの構図もあるが、元にあった意匠の意味は考えられていないだろう。
しかし、独特のものがあって面白かった。

作者不明《日本海大海戦》(5枚1組)
アール・ヌーヴォーの意匠、曲線美に彩られた植物飾り罫に囲まれた海戦図…ミスマッチのようだが…とにかく時代を感じさせた。

作者不詳の風景意匠の絵葉書が印象的だった。
明治四十三年(1910)の消印、愛知県立工業学校印刷によるもの。
墨流しのような模様、尾形光琳の《紅白梅図屏風》を思わせた。

<ポスターと広告>
特筆すべきはBYRRHの絵葉書シリーズ。
BYRRH(ビルル)とはフランスのワインにカンキナを混ぜた食前酒。
その宣伝のポスターコンクールが1903年に行われた。しかし実際にはポスターにはならず、絵葉書となって配布されたとのこと。
当時もコレクターが多かったそうだ。日本初公開の113点全てが展示されていた。
それだけでも圧巻であった。
画家やそれを志す人々がこぞって参加したであろう。
酒を主題にした絵の中には饗宴や男女の官能、カラヴァッジオ《若きバッカス》の影響を受けたバッカスの姿もあった。

それ以外にもミュシャの絵葉書も当然あった。
しかしポスターの好評から縮小して絵葉書にしたものは、図版が小さすぎて同じミュシャが絵葉書用にデザインしたものに比べて魅力を感じ得なかった。

これが今でも続く絵葉書芸術論。
小さな絵葉書の世界で、美術表現は可能か?ということ。
そしてそれは芸術か?広告か?

<絵葉書になったオペラ>
馴染みやすい主題のものが多かった。
レオポルド・メトリコヴィッツ
《トスカ》《蝶々夫人》
舞台のシーンを写真で納めたような構図。ドラマティックな描写に、オペラを観たゆえに思い出された。
《トスカ》は絵画的な描写、《蝶々夫人》は実線で輪郭を取った浮世絵的な描写という書き分けがされているように思える。

コレクションを作りたいと常々考えていたので、その勉強になった。
上質なものを拝見できたので、どういったものを集めるか、その指標にもなったと思う。
しかし最近注目が高くなり、再び海外流出や、中国・韓国にもコレクターも増えているとの事。
争奪戦が起こりそうだ……

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