ボッティチェリ特別展 美しきシモネッタ

白黒イラスト素材【シルエットAC】


丸紅ギャラリー開館記念展Ⅲ「ボッティチェリ特別展 美しきシモネッタ」チラシ

未だに過去日記消化中……ようやく2022年の終わり……


大手町・丸紅ギャラリーにて。
2022年12月1日(木)~2023年1月31日(火)まで。

一枚の絵を堪能する。この特別感。

日本で西洋絵画を鑑賞するときは、どうしても大規模展覧会で、借りてきた大作を見ることに躍起になりがちで、肖像画は素通りされがちな気がする。

こうやって一枚に集中できることがある種の贅沢さがある。
ないし、贅沢なひとときを演出している。

私が最初に驚いたのは、日本でルネサンス期のフィレンツェの絵画――それも著名なボッティチェリの真作――を所蔵していた事。
日本のコレクションだと、どうしても19世紀の印象派が多いイメージだったので。私の偏見だったと改めねば……

丸紅株式会社が本作を入手したのは1969年4月29日。絵が描かれてちょうど500周年を迎える年に、ロンドンのホースバラ画廊から約1.5億円で購入しました。意外なことに、日本のコレクターがルネサンス期の作品を購入したのは史上初めてだったそうです。

【レビュー】「ボッティチェリ特別展 美しきシモネッタ」 丸紅ギャラリーで1月31日まで
1点の名作をさまざまな角度で掘り下げる贅沢な西洋美術展 – 美術展ナビ

(2024/7/7 確認)

経緯も含めて、本当に英断だったと思う。1億円で購入した事も。
今だったらそんな値段では買えないだろう。
そのおかげて、ヨーロッパに足を運ばなくても、ルネサンス期の偉大な画家の一枚を、日本で鑑賞する事ができる。
絶世の美女と言われ、ボッティチェリだけでなくルネサンス絵画の顔の代表ともいえるシモネッタ・ヴェスプッチの肖像。

サンドロ・ボッティチェッリ《美しきシモネッタ》

《美しきシモネッタ》

テンペラ特有の厚塗りと、色あせない美しさ。
衣装の赤と、髪をまとめている青い布、そして波打つ金髪のコントラストがとても鮮やかで、小さい作品ながら、息をのむ。
本物のルネサンス美術の力強さ。

この作品は、コジモ公の衣装箪笥に描かれたものらしい(※1)。
ルネサンス美術を支えた、豪華王・ロレンツォの弟、ジュリアーノ・デ・メディチの理想の恋人(愛人)。
1475年に開催されたジュリアーノ・デ・メディチのための馬上槍試合…これは一種の巨大な演劇で、人妻への実現不可能の恋が宮廷風恋愛に準えたものらしい。その宮廷風恋愛のヒロインに選ばれたシモネッタ・ヴェスプッチ。

このイベントで、ボッティチェリはシモネッタを知り、彼女を描く。
しかし、シモネッタはこの1年後に肺炎で亡くなってしまう。

シモネッタの肖像をボッティチェリは何枚か描いているが、この《美しきシモネッタ》も含め、彼女の死後に描かれたもののようだ。
シュテーデル美術館所蔵の《若い女性の肖像(シモネッタ・ヴェスプッチ)》(※2)も写実性よりも装飾性を重んじたもので、そのため、画家の理想が投影されているとの事。(※3)
後の大作《春》《ヴィーナスの誕生》も然り。

ボッティチェリのミューズとして、彼女の死後、作品に描かれ続けていた。

会場のパネルでピエロ・ディ・コジモ、レオナルド・ダ・ヴィンチがシモネッタをモデルとした肖像も展示。
どうしたって画家の個性が反映されている訳だが、そこから鑑みるに、私はシモネッタを透明感のある白い肌の穏やかな…少女のような女性と想像する。

贋作疑惑

そして……どうしても神経質になってしまう、贋作問題。
会場ではその経緯も紹介。

お披露目された際、戦前に発行された画集に掲載されていた写真と実物の絵の微妙な違いから、贋作疑惑が持ち上がった(※4)。

結局、戦前の画集の写真が19世紀の修復の際オーバーペイント(上描き)されていたもので、戦後、洗浄により画家オリジナルの姿に戻っていたためだった。
……当時はこういった経緯や知識の共有もままならなかったので、論争になったのは致し方ないのかもしれない。

贋作問題については、西洋美術館が1964年に購入した2枚の作品が、贋作疑惑(のちに断定)があったので(※5)、どうしても敏感になっていたのではないか、と想像する。


試みとしても面白い展覧会だった。
画廊で現在の人気画家・イラストレーターの個展を見に行くような感覚に近い。
会場もコンパクトで、大勢の人が訪れても人がすぐ履ける(回転率が良い)展覧会というのも滅多にないものだと思った。

  1. 古山浩一,柾谷美奈『イラストで読む「芸術家列伝」 ボッティチェリとリッピ』p.39
  2. (2024/7/7 確認)
  3. 池上英洋『イタリア・ルネサンス美女画集: 巨匠たちが描いた「女性の時代」』p.84
  4. (2024/7/7 確認)
  5. (2024/7/7 確認)
参考文献
木島俊介『名画が愛した女たち 画家とモデルの物語』
名画が愛した女たち 画家とモデルの物語
池上英洋『イタリア・ルネサンス美女画集: 巨匠たちが描いた「女性の時代」』
イタリア・ルネサンス美女画集: 巨匠たちが描いた「女性の時代」
古山浩一,柾谷美奈『ボッティチェリとリッピ (イラストで読む「芸術家列伝」)』
ボッティチェリとリッピ (イラストで読む「芸術家列伝」)
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(2024/7/7 確認)
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