アンドレ・ブルトン没後50年展
恵比寿・シス書店にて。
http://www.librairie6.com/ (2016/11/2確認)
これも終わってしまった展覧会だけど……
備忘録。
今年はダダ(ダダイズム)誕生100周年だった。
それに因んだ展覧会。
『ダダイズム誕生100年』特設サイト:
http://dada100.jp/ (2016/11/2確認)
『ダリ展』もあったので、ダリもダダイズムメンバーにいたこと、そしてシュルレアリスムへの先駆けでもあり(※1)『シュルレアリスム宣言』を記したブルトンについて知りたいと思った。
ブルトンが具体的にどういった活動をしていたかを把握していなかった……
もちろん私も『シュルレアリスム宣言』は読んだ。
学生時代の私は、「自動手記」と呼ばれる偶然性に身を任せた技法と、ファンタジーの肯定にただ感嘆していただけだったのだが……
以下、気になった作品について等。
マックス・エルンスト"A Reunion of Friends"(※2)
ダダイズムに参加していた友人たち――画家たちをコラージュした作品。
シュール……もといダダ的な集合写真といった風。
写真よりも各アーティストの人柄が伺えると思った。
マックス・エルンスト ”Ballet Dancers”(※3)
『百頭女』など、コラージュ作品のイメージが強いエルンストの版画作品。
ぱっと思い浮かぶバレエダンサーの面影をあまり感じさせないのは、チュチュの広がりを意識させないためだろう……
私には母親に怯える子供に見えてしまった。
遠景のため小ぶりに描かれた人物像が、スカートをはいた女性に威圧されているように受け取ってしまって……
見ている人間の主観とは恐ろしい……
会場ではダダイズム、シュルレアリスム運動で活躍した女流画家たち、キャリントンやフィニの作品を拝見できた事が嬉しかった。
レオノーラキャリントン“Bard Bath”(※4)
カラスの頭を模したようなペストマスクを装着した医師と老いた神父(G・K・チェスタートン『ブラウン神父』シリーズを思い出す)が、白く骨のような顔で羽毛の無い赤い裸の鳥を囲んでいる。
タイトル通り、骨顔の裸の鳥は猫足つきのバスタブに浸かっている。
沐浴や洗礼式を彷彿させる。
しかし誕生を祝う雰囲気よりも、どこか死の匂いがする……
ペストマスク、遠景にいるカラス、黒い服のイメージ。
骸骨を思わせる頭の鳥、その姿は絶滅したドードーのように見える。
それらがイメージとしての死の匂いを強くさせる。
ダダに参加していた画家たちの作品だけではなく、ブルトンゆかりの品々の展示、画廊のオーナーがフランスを訪れた際に訪れた場所の写真なども拝見した。
アンドレ・ブルトンの墓(※5)
ブルトンの墓の写真の側には、墓石と同じ形の石が置いてあった。
墓地の側であるアーティストが石を使った多面体を制作・販売していたらしい。
直接の関係は無いが、縁(えにし)を感じるとの事。
男性性(上向きの三角形)と女性性(下向きの三角形)の融合という、魔術的・錬金術的な意匠である。
この2つのバランスが均衡であることで世界は保たれており、どちらかが偏ってもならないという、普遍の真理を象徴していた。
『太陽王アンドレ・ブルトン』出版に関連する、石と写真の展示もあった。
ここでは、フランスの河原の石も深読みできるようになる。
石を拾い、太古の世界と交感するブルトン。
その姿をカルティエ=ブレッソンが写真と文で伝える表題作を本邦初紹介。
石をめぐる秘教的(エゾテリック)な心象を綴った
晩年の名篇『石のことば』とともに、ブルトンの魔術的宇宙観の精髄をみる。◆文芸出版 エディション・イレーヌ 新刊書籍のご案内◆
アンリカルティエ=ブレッソン,アンドレ・ブルトン『太陽王アンドレ・ブルトン』より引用
http://www.editions-irene.com/books/book16.html (2016/11/2確認)
カルティエ=ブレッソンによる写真
ブルトンの住まいの側の川、その上流での写真が展示されていた。
オーナーがそこへ赴き、持ち帰った石は、オブジェになっていた。
それはブルトンが拾わなかった石、ブルトンが触ったかもしれない石だった。
日本では河原の石には霊が宿るというが……ブルトンはそうしたものをアートの霊性として見出していたのだろうか?
などとオカルト的な発想をしてしまう。
一見、価値の無いものに価値を見いだす――
深読みされた石に、現代アートの側面を垣間見た。
否定的な意味ばかりではない。
傍にはアンドレ・ブルトン『石のことば』を載せた、1957年「シュルレアリスム・メーム」誌も併せて展示されていた。
中身を拝見できなかったが、今もZINEとして配布されていたら欲しくなりそうな、洗練された表紙の小冊子だった。
ブルトン本人による作品の展示もあった。
黒い絵の具を使った、デカルコマニー(※6)による作品。
ブルトンの娘・オーヴから譲って頂いたとか。
オーヴによる作品証明書つき。
Monsieu
オーナーが パリの古書店で購入した『シュルレアリスム宣言』(1924年刊)の間に偶然挟まっていたメモが、本と共に展示されていた。
内容がすごく面白くて、興味深い。
日付は1926年2月4日。
「ムッシュー宛て」なので、誰かは分からない。かなり酷い内容で、憎む相手あてだった。
ポール・エルアールの筆跡で、マルセル・デュアルメ、ランチャマン・ペレ、ルイ・アラゴン、アンドレ・ブルトンらの署名がある。
どうも何かの裁判での陪審員に対して「くそ食らえ!」と言っているらしい……
エルアールの住所と、当時シュルレアリスム研究所があった住所が書いてあるそう。
詩人マルセル・デュアルメがやっていた本屋(今は奥様が経営)で手にいれたとか……
オマケのようについてきたメモの方が貴重という……凄いサプライズな話だった。
『ダリ展』を見た後に伺ったので、シュルレアリスム運動への内部分裂がらみかと思った。
後でちょっと調べると、当時、共産党から批判されていたらしく、もしかしたらそれ絡みかも知れない……わからないけど。
会場で頂いた粋な新聞。ダダ100周年に関するイベント告知のものだった。
デザインがお洒落で素晴らしい。
ニュースでも何でも、現代はネット共有できる時代。しかしダダが活動していた時代に最も力のあるメディアは新聞だった。
当時の雰囲気の再現と捉えると、なかなか面白い。
因みに、11月からシス書店ではハンス・ベルメールとウニカ・チュルンの展覧会を開催するとの事。
こちらも楽しみ。
今回、『ダリ展』を見た後だったため、私の見方がダダの魔術的な部分とシュルレアリスム運動に関する方に偏って見てしまっているのだが…… ブルトンはその思想の相違から、1934年、ダリをシュルレアリスムのメンバーから追放する。(※7)
それでもダリは自身をシュルレアリストであると宣言した。
この展覧会を見た後、銀座のライブラリー・バー「十誡」( http://www.zikkai.com/ )へ足を運ぶ。
今、バー十誡ではダリをイメージしたカクテルを楽しめる。(※8)
~2016/11/15までの限定カクテル「La memoria(記憶)」(※9)
ダリの作品には欠かせない、横倒しのブランデーグラスに卵(プリン)とやわらかい時計(バナナの皮。食べれない!)が添えられている。
甘くて飲みやすい。シナモンの香りも心地よい。
ダリが見たら喜びそうなカクテルだった。
- 『3分でわかるダダイズム! ダダとは?ダダと12人のダダイストたち その思想と作品』
http://blog.livedoor.jp/kokinora/archives/1017001727.html (2016/11/2確認) ノラの絵画の時間 - Max Ernst"A Friends’ Reunion"1922
https://www.wikiart.org/en/max-ernst/a-friends-reunion-1922 (2016/11/2確認) - Max Ernst ”La danseuse”
https://www.artgallery.nsw.gov.au/collection/works/9392/ (2016/11/2確認) - Leonora Carrington “Bird Bath (Baño de pájaros)" 1974
https://www.artsy.net/artwork/leonora-carrington-bird-bath-bano-de-pajaros (2016/11/2確認) - André Breton (1896 – 1966) – Find A Grave Photos
http://www.findagrave.com/cgi-bin/fg.cgi?page=pv&GRid=1296 (2016/11/2確認) - デカルコマニー – でかるこまにー | 武蔵野美術大学 造形ファイル
http://zokeifile.musabi.ac.jp/デカルコマニー/ (2016/11/2確認) - サルバドール・ダリ略歴2「シュルレアリスト」
http://www.ggccaatt.net/2014/11/20/dali-biography2/ (2016/11/2確認) 山田視覚芸術研究室 - 秋の名画イメージカクテル◆サルバドール・ダリ
http://www.zikkai.com/news/post-827.html (2016/11/2確認) - Salvador Dalí"The Persistence of Memory"1931
https://www.moma.org/collection/works/79018 (2016/11/2確認)