スペイン・リアリズム絵画の巨匠 アントニオ・ロペス展
渋谷・Bunkamuraギャラリーにて。(終了)
公式サイト:
http://www.antonio-lopez.jp/
今年は日本におけるスペイン年でもある。日本スペイン交流400周年であるためらしい。
日本スペイン交流400周年
http://www.esja400.com/jp/index-jp.shtml
先日の『エル・グレコ展』に引き続き、スペインの現代絵画の巨匠の展覧会だ。
恥ずかしながら、私はアントニオ・ロペス氏について何も存じ上げなかった。元々現代美術に疎い方なので、事前情報をあまり入れずに観に行った。
ドキュメンタリー映画『マルメロの陽光』(92’西/ビクトル・エリセ監督)で主人公であった画家であるそう。
映画作中で製作される《マルメロの木》も展示されていた。これは未完であるそうだ。
印象派やキュビズム、諸々の影響を受けて作風は変化しているようだった。
しかし、その緻密な描写が素晴らしかった。
《マリアの肖像》
鉛筆で描かれた娘のコートの質感、しわが生み出すわずかな起伏も丁寧に描写されており、ただただ感嘆してしまう。
印象的だったのは、スペインの赤い土の色。
それがすべての作品に現れている。
暖色系の色味は全てこの赤土の色に帰属するのではないかと思う程に。
都市の情景は細かい所にも目を凝らして描写しようとした画家の視線を感じた。
空気遠近法でぼやけた所はぼやけ、注視した建物の窓は一つ一つ描かれている。
広がる大地に、抜けるような高い空の対比。
スペインに行ったことはあるが、マドリードでの滞在は短かった。
しかしその時感じた乾いた空気であったり、都市部の情景や広がる大地の印象を想起させられた。
彫刻作品が興味深かった。リアルだった。
個人を表したものではないようだ。複数のモデルの身体を研究し、掘り出された身体。
古代ギリシアの彫刻のような理想的な身体ではなく、写実的な身体だ。
若干猫背で中肉中背の男性像と、ちょっとお腹が出ている女性像。
余りにも身近な生々しさがある。木で作られた温もりも相まって。
制作にあたって描かれた下絵からも画家のリアリティの追及が伺えた。
写真のように、細部を記録するように描かれたもの。
広告に使われている街角の風景《グラン・ピア》は早朝の人気のない街角に、本当にカンヴァスを置いて描いていた。街が動き出すまでの短い時間に――結果、四半世紀の時をかけたという。
一見するとそれに反するような印象派を思い起こさせる作風。しかし印象派は全体の“印象”を絵に起こしたものだ。(人間は目に映ったもの全てを認識出来ていない、を表現したもの)
キュビズムは絵画という平面の世界にあって、立体を多角的な視点から捉えてそれを一面に表現した。
彫刻は言うまでもなく対象を多角的な視点から捉え、それを表現したものだ。
多くの研究と実践がされている作品群だった。
それ故に個々の作品の制作時間も長く、未完の作品も多い。
進行形の作品群だった。
スペインは鮮やかで情熱的なイメージだ。フラメンコや闘牛、サクラダ・ファミリアの極彩色のステンドグラスなど。
それら観光のイメージではない。身近な生活感のあるものが描かれていた。都市の情景、家族、食卓、台所、風呂場――
どれも生活感のあるものだった。スペインの日常があった。