映画『王立宇宙軍オネアミスの翼』感想
庵野監督が製作に関わり、『不思議の海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』のルーツとも言うべきSFアニメ作品。
淡々とした日常風景、浮かれた繁華街を冷めたような目で見つめる描写など、確かに『エヴァ』に通じるものがある。カメラアングルなど、ほぼ同じだ。
【あらすじ】
「もうひとつの地球」にあるオネアミス王国。
主人公・シロツグは戦闘機に乗る事に憧れていたが夢敗れ、形ばかりの王立宇宙軍に所属している。
倦怠な日々の中、ある少女との出会いをきっかけに自分の職に誇りを持って打ち込んでゆく。
彼は果たして人類初の宇宙飛行士になれるのか――!?
オネアミス王国のネオンがきつく輝く歓楽街や昔懐かしい風景が高度経済成長期の日本を思い出させる。
人類初の宇宙飛行を成し遂げるという壮大な目標を掲げながらも、ガガーリンやアポロ計画のような国家の威信を掛けたプロジェクトという張り詰めた緊張感はない。
寧ろその目標故に荒唐無稽な事だけを言う「何もしない軍隊」と揶揄されている、私には意外な風潮だった。よく言われる高度経済成長期のイメージとは違う事に。
また、人ひとりを打ち上げるために多額の税金・裏金を使う宇宙開発の意味という社会的な視点も興味深かった。
訓練の一環で戦闘機に乗らせてもらう事になり、シロツグの過去の夢が実現する時――
戦闘機のコックピット内の描写がとても素晴らしかった…
カメラアングルの表現も、計器の動きや旋回した時の空まで…
押井守『スカイ・クロラ』にも影響を与えたのではないだろうか。
映像や物語に映画のリアリティーがある作品だった。
エンドクレジットにはNASAの文字もあったので、リアリティを求め取材を徹底していた事がうかがえる。
最後のシロツグの言葉は、作品公開から30年以上経った今でも普遍的な問題定義を観ているものに突きつける。
地上でこの放送聞いている人いますか。
私は人類初の宇宙飛行士です。
たった今人間は初めて星の世界に足を踏み入れました。
海や山がそうであったように,かつて神の領域であったこの空間も,これからは人間の活動の舞台としていつでも来れるくだらない場所となるでしょう。
地上を汚 し空を汚し,さらに新しい土地を求めて宇宙へ出て行く。
人類の領域はどこまで広がることが許されているのでしょうか。
どうかこの放送を聞いている人,お願いです。どのような方法でもかまいません。
人間がここに到達したことに,感謝の祈りを捧げてください。
どうかお許しと哀れみを。
我々の進む先に暗闇を置かないでください。
罪深い歴史のその果てにも,ゆるぎない一つの星を与えておいてください。
それは否が応でもアームストロング氏の言葉を意識させる台詞だった。
That’s one small step for (a) man, one giant leap for mankind.
これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。