バーン=ジョーンズ展――装飾と象徴
連作「ペルセウス」
一番見たかったもの。私にとって原点的英雄譚が主題なので。
参考:映画『タイタンの戦い』リメイク
本物の大きな画面が、その迫力が、画集で気づかなかった細部を見せてくれる。
《メドゥーサの死Ⅱ》
メドゥーサの首を取り、袋に押し込みながら逃げるペルセウス。向って左には妹を殺されたことに気付き、襲い掛かるゴルゴンたち。
メドゥーサの首は目を閉じ、まるで眠っているようだ。
滴るメドゥーサの血からペガサスは生まれていない。
《果たされた運命:大海蛇を退治するペルセウス》
ウツボを思い出させる容姿のクラーケン。
青みが多い画面は躍動しつつも静かな緊張感を漂わせる。
アンドロメダは岸壁に束縛された裸婦として描かれるが、このアンドロメダは手枷を解かれていた。
ペルセウスは中世騎士の甲冑を纏い、ペガサスではなくクラーケンそのものに跨がり奮闘している所も斬新だ。
英雄譚といえばテセウスのミノタウロス退治を主題にしたものもあった。
《迷宮のテセウスとミノタウロス―タイル・デザイン》
用心して進む、中世の服装をしたテセウス。迷宮の狭い通路の先では可愛らしい顔のミノタウロスが角から
覗き込み様子を伺っている。一寸先は闇、そんな言葉を思い出す。
《運命の車輪》
中世に持て囃された意匠だが、ここにもバーン=ジョーンズのオリジナリティが輝く。
車輪の側面見せて描いている。伝統的な正面の円形を見せる様式ではない事がモダンだ。
イタリアへ行った際ルネサンス美術に触れ、ミケランジェロに強く影響を受けたという。車輪に敷かれる奴隷、王、詩人の筋骨隆々の姿に
そこに描かれた人の興亡。それは語り継がれ、物語になり、伝説になる。
文学からインスピレーションを得ているバーン・ジョーンズの作品は、見ているだけでその物語の行が頭に浮かんでくるようだ。
モリス商会との関係があるので、それは至極当然だろう。ウィリアム・モリスは活字で成したものを彼は絵画で表現した。
《眠り姫》
個々の眠りのポーズが印象的な作品。不意に寝入った人々の姿はまちまちだ。
バーン=ジョーンズが描く眠りは安息と理想の内にある。
眠りというより、夢を見る事に重点が置かれている。
バーン=ジョーンズの中で、本を読んでいる想像と眠りの中で見る夢の心の平安がリンクしていたのだろうか。
夢が与える驚異のヴィジョンを絵画にしようとしたシュルレアリスムがこの後現れるが、それに通じるものを感じる。
《ピグマリオンと彫像》
日本初公開という。
画家の理想そのものの主題には、例外無く理想の女性像と愛する女性の面影があった。
洗練された美しさを漂わせるバーン=ジョーンズの作品。
それは詩的で見ていて落ち着く。
最後の風刺的自画像《描かれざる傑作の群れ》はアイデアが次々と湧きながら全てを絵に出来ない自分の姿を風刺したもの。
そこに切羽詰まった雰囲気は無く、「ふー、やれやれ」とおどけた感じがあり、可愛らしい。
三菱一号館美術館へは初めて行った。
イギリス式の建築様式の建物だからか、この展覧会に合っていた。
以前美術館に行った方から「靴によっては足音が反響して気になる」と伺っていたし、美術館サイトにも注意書があったのでペッタンコな靴を履いて行く。
確かに大勢が動くと気になるった。ヒールが低い靴が良いだろう。
木の廊下の方が雰囲気があるって好きだ。