林忠彦写真展 〜紫煙と文士たち〜

白黒イラスト素材【シルエットAC】
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林忠彦写真展 〜紫煙と文士たち〜

渋谷・たばこと塩の博物館にて。
http://www.jti.co.jp/Culture/museum/exhibition/2011/1201jan/
~2012/3/18まで。

「満足度高し」と薦められ、主題も気になるものがあったので足を運ぶ。
確かに100円という入場料でも十分満足できる内容だった。

銀座のバー「ルパン」でのアナーキズムを匂わせる織田作之助・太宰治・坂口安吾の姿。坂口安吾のゴミか資料か、紙屑に囲まれた仕事場はインパクトがあった。キャプションに添えられた林忠彦氏のコメントや回想には文士たちとのエピソード、彼らの内面を写し出そうとする氏の思いが綴られていた。

文士たちが気難しい顔、一息つくような顔で紫煙をくゆらせる姿は味がある。
吸っている銘柄、立ち上る煙、吸うときの姿勢に個性が如実に現れている。それが伝わってきた。

喫煙はかつては英国紳士の嗜みだった。
映画『ダイヤルMを回せ』で紳士達が集う場面では皆、片手に煙草を持っている。
即ち煙草がダンディズムのアイコンだった。
このイメージの延長であることは言うまでもない。

イメージとしての煙草は非喫煙者である私でも、格好良いと思う。
だが、私は身体に合わないので吸わない。
中毒性や身体への害が大きい。かつての紳士の嗜みは今や悪習だ。
そう見なされたのは健康問題だけでなく、喫煙者のマナーの無さ、歩き煙草にポイ捨ても一因だと思う。
芥川龍之介の『煙草と悪魔』を思い出す。
参考:芥川龍之介『煙草と悪魔』(青空文庫)
日本に煙草を悪魔がどこからか持ってきて、畑を作り育てていた。そこに牛商人が通りかかり悪魔にその植物が何であるかを聞く。悪魔は植物の名を答えず、自分で考え三日以内に答えなければ牛商人の魂と体をもらうと言った。牛商人は、牛を悪魔の畑で暴れさせることで植物の名を聞きだし、悪魔を欺いた。結果、牛飼いの命は助かったが、人間の健康を害する煙草は日本に普及してしまった。という物語。
「切支丹物」というジャンルに区分されるが、これは当時の西洋を見習って近代化を進める日本への批評精神の物語らしい。日本は西洋の良い所を取り入れたが、悪い所も受け入れてしまったことを言っているそうだ。
芥川の『煙草と悪魔』制作の覚書には‘人間にとって利益となると思われる事象も、損失につながる面もあり得る’と記されていたとか。

では、その損失をどのように改善してゆくのだろうか。
90年代頃からか、健康志向から禁煙と公共施設での分煙が普及したのは。
前述映画の98年のリメイク『ダイヤルM』では同じシーンでは誰も煙草を持っていない。もちろん意図的に修正してある。
禁煙と分煙、そして『大人たばこ養成講座』に見る喫煙者の意識改革。
今後の煙草の、喫煙者のイメージはどうなるのだろう?

常設展示も見たが、そこで気付かされたのは日本では煙草がお香の延長の扱いであったことだ。
展示されている煙草盆は明らかに香盆の流用で、
昭和初期の国産煙草のジャケットは線香のそれだった。
火を使い、煙を出し、香りがある点では香も煙草も似ている。だが香には十徳があるが、煙草には百害あって一理無しのイメージがある……
私にとっての煙草の魅力は、イメージとジャケットデザインのようだ。

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