香り かぐわしき名宝展

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香り かぐわしき名宝展

上野・東京藝術大学大学美術館にて。
http://kaori.exhn.jp/top.html
~2011/5/29まで。

良い展覧会だった。
「良いものを各地から集結させてあるので、是非見て欲しい」と言われたが、その通りだった。
道具だけではなく、香の種類・ご香銘についても紹介があったので、内容が充実していた。

私は志野流香道を経験しているが、御家流香道の記録紙や普段見慣れない競馬香の道具一式、高価な香炉、蒔絵や七宝が施された十種香道具一式が展示されていた。
参考:『競馬香の盤及び立物』
http://www.kogado.co.jp/home/izanai/13/zoom/index.html
そして香木そのものを“鑑賞”する、という面白いものまで。
燃える様な造詣の香木は大きく、それだけで貫禄があった。

展覧会では、香・香木が仏教の供養物や高直なものとして伝来し、宗教の枠を超えて日常に定着してゆく過程、平安時代には貴族の遊びとなり、武家嗜みから、徐々に広まってゆく時系列もわかり易かったと思う。
時代毎の品々にもその変化が見て取れた。

そして『源氏物語』。当時の貴族社会を描いているので、言わずもがな。
香に関する、日用品や遊びとしての描写が時々表れる。その現物が見れる。
着物に香のかおりをうつす道具である伏籠を見て‘「すずめの子を犬君(いぬき)が逃がしつる。伏籠(ふせご)の中(うち)にこめたりつるものを」とて、いと口惜しと思へり。’幼い紫の上の行が直ぐに思い浮かんだ。
参考:『若紫』
http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/genji3.htm

第三十一帖『真木柱』で玉鬘のところへ出発しようとした髭黒に狂乱した北の方が香炉の灰を浴びせようとする場面を描いたものなど。
参考:『真木柱』(現代語訳)
http://homepage1.nifty.com/WAKOGENJI/31makiba/31makiba.html

香りを展示する、という試みも定着したと思う。
触ってもよい香木・白檀(サンダルウッド)が展示。
香といえば、一番一般的だろう。触れた手にも香りがうつっていた。
そして会場には数ヶ所に香りを聞く箱が置かれ、「伽羅」「練香」「梅の香」をイメージしたものだった。
今まで見てきたものを思いだしながら聞く。
因みに香道では匂いを「嗅ぐ」ではなく「聞く」という。
匂いに問いかけをして、その答えを「聞く」という所からきていると。
また、別の嗅覚と聴覚がかつては等しく解釈されていたと聞いた事がある。

最後の章『Ⅳ.絵画の香り』は一種の“試み”だったと思う。
それまでは香に纏わる、使われる工芸品の数々、香を扱う場面を描いたものだった。
絵画に匂いは無い。しかし、匂いの無いもので香りを表現できるか。そんな言及に感じた。
「芸術の上に常に欲しいと思うのは芳しさです」という速水御舟の言葉にそれを意識させた。

目に見えない、しかし存在する香り。
それを視覚化する。
香水の瓶は正にそれだが果たして香はどうであろうか。

映画『perfume ある人殺しの物語』(以下、映画『perfume』)でも言及されていた。

芳しい香水の瓶を開けた時の、その香りを華やかなヴィジョンで表していた。映画『perfume』は元が小説であるためか、香りをより具体的な“言葉”で表現していた気がする。

アニメ『モノノ怪』鵺の章では、それこそ香道が題材となっている。
モノノ怪 四之巻 「鵺」 [DVD]
香りを聞く場面で、それまで水墨画風であった世界が一気に極彩色へと変わる表現は、香りを聞く人の想像と精神状態を表し、同時に目に見えない“香り”をよく表していた。

絵画におけるかおりの表現とは、見るものにその香りを想起させることだと思う。
それが難しい。
見る人の香りの経験と画家がそれを表現する腕前が無ければ。

私は、花を見るとその図像が何を表しているのか、その寓意について考えてしまう傾向がある。
そうではない実感を伴うもの、経験を身に付けなければならない事を強く意識させられた。

最後の章で上村松園《楚蓮香之図》を見れて満足。前の展覧会を見に行けなかったので。下記写真よりも色鮮やかで美しかった。
参考:上村松園《楚蓮香》
http://search.artmuseums.go.jp/gazou.php?id=150298&edaban=1

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