小田亜美個展
今年も個展をなさっていらっしゃった。
原宿・K.S.ギャラリーにて。
http://www.hpi-j.co.jp/~ksg/
2011/2/12まで。
今年は卯年――
ウサギが当てられているので、タイムリーだと思う。
ウサギは悪戯をするトリックスター、そして何かの“先触れ”として現れる。
例えば『不思議の国のアリス』では時計を持つ白兎を追う事でアリスは不思議の国に入る。
『因幡の白兎』では鮫を欺いて島を出で、そこで出会ったオオナムチ(後のオオクニヌシ)に婚礼が良縁となる事を告げる。
異界や吉兆の前触れになっている。
小田亜美さんの作品に表れるウサギは、彼女自身であると同時に、見る人を作品の中に誘ってしまうウサギである。
毎年、作品を拝見させて頂いて、同じウサギであっても毎年印象が変わる。
それは見る側、作者の心象の変化だろうが、私はそれが楽しみである。
《私小説 spiral》
DMに使われている作品。
螺旋階段をよじ昇るウサギ。その下から付いて来るように画家の後ろ姿が描かれている。
縦長の画面に螺旋階段の始点と終点は見えない。無限とも思えるその構成はDNAの二重螺旋構造や人生を連想させられた。
《私小説 sewing》
右手にソーイング用の糸切バサミを手にした一羽のウサギ。
左手は人の手のようになっており、チョキを形作っている
その対比を凝視するようなウサギの姿が微笑ましい。
その横に横長のカンヴァスに描かれた連作がある。
ベレー帽の頂点に耳を通すための穴を開けるウサギたち。
個性豊かだ。
器用にカスタマイズするウサギ、穴を開ける事に失敗しいじけるウサギ、何故か毛糸の帽子を作るウサギ…
その一羽一羽が物語を持っている。
この三枚の絵の繋がりが面白い。
今回の作品を拝見していて、何故だか“変化"を強く意識させた。
螺旋階段の“同じ場所に留まりながら上昇する変化の在る構造”や糸を断つハサミが、私には何かの終焉の隠喩のように思われたからだ。
ギャラリーにはご本人もいらっしゃったので少しお話しをさせて頂いたが、昨年は精神的に疲労することが多かったそう。
年が明けることを切に願っていらっしゃったそうだ。
兎の登り坂、と言うように飛躍の年であることを切に願う。