映画『第9地区』感想
『第9地区』オフィシャルサイト
http://d-9.gaga.ne.jp/
良い映画だった。
映画全体にあるテーマは“人種差別”である。
そして観る人は、人種差別が今や多くの対立の根底にある事を意識させる。
舞台が『インディペンデンス・デイ(以下、ID4)』のようにマンハッタン、アメリカ主要都市ではなく、南アであることから、多くの人がアパルトヘイトを思い出すだろう。
エイリアン達は『ID4』『宇宙戦争』のように地球侵略をしに来た訳でも、『未知との遭遇』のように友好関係を築くために来た訳ではない。
私が思うに、ただ辿り着いただけなのだ。
それこそ、大航海時代の船乗りのように。
突然現れ、何も変化がない宇宙船に人類が乗り込んで見たものは、栄養失調状態のエイリアン達。
“人道的”理由から彼らを宇宙船から降ろすも、彼らは帰る気配もなく、目的も不明のまま。
宇宙船の真下に“第9地区”という難民キャンプが作られ、20年が経過したという時間軸。
そこは人間とエビの争いが絶えないため、MNU (英:MULTI-NATIONAL UNITED) と呼ばれる超国家機関によって管理・監視されていた。
MNUの社員であるヴィカスは、エビたちを彼ら専用の居住区域である第10地区に移住させ、地区からの立ち退き要請の同意を得るため第9地区を訪れるが、ふとした事からエイリアン化してしまう。
ドキュメンタリー風の映像と、彼の視点からエイリアンの本当の意思と、人間の抱える暗い面が垣間見える。
『アバター』にも通じるものがある。
それは人間が常に他者、異なるものを互いに理解出来ない事。
そこから端を発し、人間は理解出来ない他者への恐怖から、脆弱な自身を守るために対立が生じる。
これが物語の中の人物だけでなく、観客もその不安を感じてしまう仕立てなのだ。
意思の疎通もままならず、腕力が強いエイリアン達を見ていて不安になった所に、1人のエイリアンが秘密裏に廃品のパソコンを利用して何かを製造し、液体を精製する描写が映し出される。
観ている者はそれが何であるか知る由もないが、それ故に邪推してしまう。
しかし物語が進み、真意が明らかになると、その考えを恥ずにいられない。
エイリアンよりも弱い人間の方が己の利潤を追求している事が描写される。
主人公のヴィカスは等身大の一般人で、その行動は共感できるものがあるのではないだろうか。
そしてそれ故に相手を想ったり、互いを助けようとする姿はやはり美しい。
隔離地区の在り方については色々と思う事があるのだが、私の中でまだ明確ではない。
ただ、映画ラストに現れる廃品で出来た造花は、信頼の証、希望の象徴のようだった。