Stitch by Stitch

白黒イラスト素材【シルエットAC】
JUGEMテーマ:美術鑑賞

と、いう訳で?

先日、庭園美術館『Stitch by Stitch』を観て来ました。
http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/stitchi/index.html

ドレスコードで刺繍(ミシン可)の入った服を着てくると、100円引きという…
意図せず着てきた服の胸元に刺繍が施されていたので、100円引きになりました。

既存の伝統的な刺繍の展覧会でもなく、手工芸好きの奥様方の制作物発表会とは異なる、刺繍で表現されたアートとは、一体如何なるものなのか?そんな期待がありました。

Stitch by Stitch

いつも通りに気に入った作品の感想。
現代アートなので、写真も絵も無い。ただ文字を連ねるだけになりそう。


手塚愛子《落ちる絵》
美術館入って直ぐに、部屋を隔てるように吊るされたピンクの刺繍が施された白い布。
絵が刺繍され、それらは寓意的だった。そこに刺繍されていたのは“刺繍に纏わるもの”のようだった。
服飾の歴史、布を纏った人物像(神)、さらにはオシラサマまで。
言わずもがな、オシラサマは蚕・絹の神。
そうしたものが記され、その裏には糸が長く引いている。それは何の意図か。
ぞれぞれから伸びる糸が一つに束ねられ、天井から太い幹のように下がっている状態は圧巻だった。
同時に刺繍というものが平面構成の印象を持っていたものが、こうして立体的、三次元的に展示される様は斬新な印象を受けた。

伊藤存《空のポートレイト》
実にアート的なるものだったのでは無いだろうか。
具象性は何も無く、“幽霊”という言葉を足がかりにしようにも、そんなものを見出せない。
現代アートなのだろう。

村山 留里子《マント》《気高い手(右手/左手)》《Untitled》
全体的に、実に手工芸的で、女性らしい作品に思えた。
気品もある。
黒いマントの中には、外と対を成すように色とりどりのヘッドドレス、アンティーク調のレースの小物が覗く。同じくシンプルな黒いトルソの内側も造花やビーズ、羽で彩られ、キラキラと輝いて見える。
どれも乙女の好奇心を煽られるような世界観だった。

アウトサイダー・アートのジャンルも展示されていた。
(nui project)吉本篤史
小さな布切れから糸が引き出されている。
それは刺繍のイメージから逆転の発想だった。
布に糸で刺繍するではなく、布から糸を取り出す。
同時に、布と言うものが糸の折重なりで成り立っているという、至極当たり前で忘れがちな事実を見せ付けられた気持ちになった。

(nui project)大島智美
形に関心をお持ちの方らしい。
そこには小判の形をしたもの、それに類するものが鮮やかな色彩で刺繍されていた。同型の反復と変容する様にも関心があったが、アステカ・マヤ文明のもののようなデザイン・色彩感覚に圧倒される。
しかし、これは理屈では無いのだろう。

nui project
ヌイ・プロジェクトは、[布の工房]から生まれた独創性に優れたプロジェクトとして、1992年より本格的に活動を開始しました。ひとりひとりの個人ワークを優先させ、「針一本で縫い続ける」という独自のスタイル=行為から生まれてくる思いがけない表現、そのプロセスにおいて表出する心の動き=心理や行動=アクションのすべてを「その人の個性」として尊重し、サポートすることを大切にしています。ここでは、知的障害を持つ人たちの思いもかけない優れた才能が、アートやテキスタイルの分野に刺激を与えるまでになっています。ヌイ・プロジェクトをとおして私たちは、自分のスタイル(独自性)を持つことの本質を社会に向けメッセージを送り続けています。そして、「障害とは何か」を根底から問いかけています。
(しょうぶ学園HPから引用)

清川あさみ《Complex-hair》
宣伝広告に使われていた赤い写真の作者。
写真に縫い付けられたスパンコール、リボン、ボタンの数々は服飾のようにヌード写真を飾る。
赤い写真のもの《Complex-voice》は言うまでも無く眼を惹くものがあったが、私は青い写真の《Complex-hair》の方に魔力を感じた。
髪と女のイメージに“魔力”を連想してしまうためかもしれない。実に女性的なるものの象徴のようだった。

奥村綱雄《夜警の刺繍》
この人の、この作品は特筆すべきだと思った。
夜警の仕事をしながら、文庫カバーに刺繍…と言うよりも寧ろ糸の玉がびっしりと縫いつけられている。それも刺繍の糸の色はまちまちで、模様を作ろうという規則性は感じられない。千人針を思い出させるが、願懸けという印象は受けない。添えられたエピソードにも驚きあきれた。
一体何故、刺繍なのか?小さいながらも10年近い歳月をかけて作られたと思しきその作品に、唖然とさせられた。

秋山さやか《あるく ― 私の生活基本形》
地図に自身の行動した、歩いた道の記録を刺繍するという作品。
深川、上海、ストックホルム――そして庭園美術館のある白金。
人生の行動と言うものは、刺繍に似ているのかもしれない。生きる限り、人は移動し、地図に、道に、人生に足跡を残すのだから。
インスタレーションとして、書斎にちらかった刺繍糸やリボン、ボタンの類を見て、矢張り乙女心を擽られた。


矢張り作品全体は、アートというより、手工芸としての粋を出ないのではないでしょうか。額縁に飾られたものも何点かありましたが、“額縁に入っているからこれはアート、アートになってしまう”という捻くれた見方にもなってしまう…
しかし、かつて朝香宮邸――個人の邸宅であったが故に、作品との雰囲気にズレや違和感をそこまで感じないのではないでしょうか。
ただの白壁に掛けられた額縁に収まっているという印象は与えませんでした。寧ろ、日常風景の様に溶け込んでいたような……

今回、展覧会カタログが既に完売していました。増版もしないとの事…
その事実に驚き、ちょっと残念に思いました。
しかし、こうしたジャンルのカタログが売り切れになるというのも、少し意外でした。

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