映画『ブラックパンサー』感想――渾身のアフリカン・カルチャー・リスペクト

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JUGEMテーマ:SF映画 一般

映画『ブラックパンサー』チラシ

公式サイト:
https://marvel.disney.co.jp/movie/blackpanther.html

前回?映画『シビル・ウォー/キャプテン★アメリカ』で存在感のあるキャラクターだったブラックパンサー。
満を持してその映画が登場。

マーベル映画『アベンジャーズ』シリーズへの布石でもあるわけで、物語は堅苦しいことを抜きにして娯楽映画なのだが、最近の傾向らしく“社会派”な要素も含まれていた。
アメリカ社会における低所得者層になりやすい、人種差別的な問題も含め……しかし、今回は割愛。

この映画について感想を書こうとすると、実験的であり革新的にも感じた、アフリカ・カルチャーへのリスペクトについて、言及せざるをえないだろう。

主要登場人物が白人以外

2016年の第88回アカデミー賞は“白すぎるオスカー”と揶揄された(※1)。その反動ともとれる。
寧ろ、今までこんなに黒人を起用した映画があっただろうか?
それもアメリカ農奴制度や南北戦争、アパルトヘイトなどをテーマにした映画以外で。
アクションシーンでは黒人特有の身体能力を遺憾なく発揮しているようにみえ、見ごたえがあった。

水がない世界

動物は水が無いと生きられない。命を繋ぐ存在だ。
しかし、この映画で水は命を支える存在とは違う立ち位置にあるようだった。
まるで死の象徴だった。

決闘の場所が滝で、主人公ティ・チャラ(ブラックパンサー)が敵役・エリックによって王位をはく奪され、滝壺に落とされた。死に瀕したティ・チャラが蘇生する際は、正当な手続きとは異なる通過儀礼として、赤い土とは対を成すような白い雪(氷)に包まれていた。
それにエリックは黒人が奴隷船での航海中に己の尊厳を守るために海に投身自殺したというエピソードを語る。

流血禁止のディズニー映画なので一滴も流れないわけだが、そのため全体的に“乾いた”印象があった。
エンドロールの映像はR&Bにのせて、ビビットなカラーの上に砂絵でアフリカン・テキスタイルに見る幾何学文様が展開されている点でも、水気のあるものを徹底的に排除したのだろうか。

……よく考えたら、アフリカの水事情は未だに良いとは言えないし、現実的ではないためかもしれない。水を引いたら象さんが水を飲むためにトイレを破壊しに来るらしい。(※2)

アフリカン・カルチャー

デザイン ――テキスタイル、装束、意匠

映画全体の特筆すべきことだろう。
ビビットなカラーとアースカラーのコントラスト、シンプルで素朴感がある幾何学文様。それが映画全体に彩を添える。
ティ・チャラの妹・シュリの地下研究室に続く螺旋階段は、まるでDNAの二重螺旋構造のようだった。人類発祥の地であるアフリカへのリスペクトだろう。

それはキャラクターの衣装にも表れている。(※3)
ワガンダを支える五部族の装束は多様で興味深かった。それらは現実のアフリカ民族衣装がベースである事は言わずもがな。川の部族と呼ばれる族長は、スリ族やムルシ族のように皿を唇にはめていた。(あの装束は女性だけではなかったか?※4)

ミュージック

エンドロールではヨーロッパの古典音楽的なエピック・ミュージックと掛け合うように、アフリカのリズムが交差する。
まるで二重螺旋構造のように、並列して合いそうで合わないリズム。
アフリカ音楽に疎いので、私は聞いていると拍子(ビート)が奇数のように聞こえた。そのため、ヨーロッパ音楽の偶数の拍子の間を縫っているようだった。
合致しそうでそうならない。そのもどかしさが気になる。
日本は一拍一音の拍子でリズムに弱いと言われているためだろうか……(個人的な経験だが、このためフラメンコのリズムを理解するのに凄く時間がかかった)
この拍子は何なのだろうか?

アフリカの子どもたちに三拍子の曲を聴かせると,二拍の手拍子を叩く.曲が「1.2.3.1.2.3.」とリズムをとる間を,「1.2.1.2.」のタイミングで手拍子を入れる.音そのものではなく,曲と手拍子がぴったり一致しないことでできる微妙なタイミングのズレが,アフリカ人にとっての「リズム」そのものなのだそうだ.
(中略)
昔から,二拍子や四拍子は,歩くリズムだから体に染み付いている自然なリズムだが,三拍子という割り切れないリズムが,なぜ無理なく聞こえるのか不思議だったが,これは心臓の脈拍なのだそうだ.「心臓がドキドキする」という言い方をするが,実際の心音は「ドッキドッキ」という,三拍の真ん中を抜いたような三拍子を刻んでいる.心臓の筋肉が全身に血液を送り出す時の,やや時間をかけてギュッと絞りだす動き.逆に心臓に血液が流れこむ時の,一瞬の動き.心音は,その動きに合わせて動く心臓の弁の音なので,自然に三拍子を刻んでしまう.
そして,心臓が三拍子を刻むと同時に,足が二拍子をとる.心臓を動かしながら歩き続けるのが,人間の基本的なリズムだと,アフリカ人は考える.だから上述のような手拍子を合わせるのだ.

リズムとズレ – oldbadboy.com
https://oldbadboy.com/2016/04/25/リズムとズレ/

ボザノバなどのラテン音楽をよく聞くと,背後で主にクラベスという拍子木が,このケニケニのリズムを刻んでいるのがわかるはずだ.アフリカから奴隷として連れ去られ,南米で生きることになっても,故郷の心臓と足のリズムまで奪うことはできなかったのだ.

リズムとズレ2 – oldbadboy.com
https://oldbadboy.com/2016/06/20/リズムとズレ2/

音楽の中にもそうした敬意を込めている、その力の入れようが見ている私にも強く伝わってきた。


リスペクトしているとはいえ、消化不良気味な点は否めない。
アフリカ・カルチャーといっても、どこか“なんちゃって感”がある。私が気になったのは壁の落書きとか、都市構造とか。

壁の落書きに関しては、個人的には“治安の悪さ”の象徴が出発点のため、ダウンタウンのイメージと架空国家“ワガンダの歴史のイメージ”が結びつかない面があった。
そこから“ストリートアート(※5)”として創造性や情報発信としての力の強さが見出され、“コミュニティーアート”として地域再生や可能性が模索されてきた昨今なので、もちろん“アート”として見れるのだが。
……比較的治安の良い都市でも、歴史ある街でも、世界のどこかには必ずスプレー落書きがあるからいいのか?

都市構造に関して言えば、アフリカ大陸でも現代的な高層ビル群化が進んでいるところもあるので仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、西洋文化の焼き直し的でアフリカの都市情景という印象が無い。
そう思わせるのは、単に私が広大なアフリカの大地に高層な建物のイメージが結びつかないためだろう。
もし外界から遮断され地下資源を活用する都市なら、私だったら地上は平屋づくり(高くても3階建てとか)で地下都市が広がっているとか考えてしまう。その方が灼熱の陽射しから逃れられるし、ある意味隠れられるし。

王のあり方 ―― 一国の指導者として

映画終盤、ティ・チャラはヴィブラニウムを人類共通の財産としてシェアすることを公表する素振りを見せている。
ただ、自国の国益を第一に考えるのも、王の姿勢として必要なことだ。
ヴィブラニウムを放出するよりも、寧ろ農業国としての掘削技術や、治水技術を先に提供すべきではないだろうか?

……とは言え、現在公開されている映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の予告編を見る限り、世界規模の戦闘になる以上、対抗手段としてのヴィブラニウムを人類が手にしていないと人類は壊滅してしまうから、そのための布石だろう。
ドクター・ストレンジも合流して、マーベルドリームチームが最強の敵に挑む……
何だかスケールが大きすぎて、消化不良を起こしそうなんだけど……

  1.   アカデミー賞は人種差別? 白人俳優しか候補にならず – BBCニュース (2016年01月22日)
    http://www.bbc.com/japanese/video-35379137 (2018/5/)
  2.  アフリカで水洗トイレをつくったら象が水を飲みに来る問題 | netgeek
    http://netgeek.biz/archives/95740
  3.  トリビア満載!『ブラックパンサー』イースターエッグ・小ネタまとめ | Fan&’s Voice〈ファンズ・ボイス〉| ポップカルチャーのファンメディア
    http://fansvoice.jp/2018/03/30/blackpanther-easter-eggs/

    マーベル映画『ブラック・パンサー』の衣装を徹底解剖! | FUKROO [フクロー]
    https://fuk-roo.com/originals/1732

  4.  唇に大きな皿をはめたムルシ族!【少数民族巡りハイライト】 > 3 なぜ唇に皿を入れるのか?
    http://daiki55.com/mursi1/#i-3
  5.  「違法な」アートが街や企業を惹きつける理由−−ストリートアートで活気付く欧州の街を巡る | AMP[アンプ] – ビジネスインスピレーションメディア
    https://amp.review/2017/09/28/street-art/
参考文献
塚田健一『アフリカ音楽の正体』 音楽之友社 2016
アフリカ音楽の正体
福田明男『アフリカン・エスニック・デザイン』 柏書房 1992
アフリカン・エスニック・デザイン
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