北川健次展 『召喚―フレミングの仮説』
茅場町・森岡書店にて。
http://moriokashoten.com/
~2012/1/28まで。
恒例になっている森岡書店さんでの先生の個展。
今回は写真集『サン・ラザールの着色された夜のために』の出版記念。
北川健二先生公式サイト
http://kenjikitagawa.jp/
素材にはメディウムの薄い膜が重ねられ、コラージュされている。“イメージを皮膚化する試み”という。
気になった作品について。
《2つのM》
新作だった。
左から右へ、男性が屈み、物を取る動きの連続写真。
その人物の間に配された、色と大きさが異なる2つの"M"
絶妙なバランスで配されていることがわかる。
そしてタイトルも気になった。私の中で何か、ひっかかるものがある。
何かのアナグラムだったような――
唐突に閃いたのは、
“Memento mori"だった。
写真集に掲載されている写真はどれも綺麗で、そこに新たに添えられた詩と共鳴して世界観がより伝わってきた。
《Bercyの歩く男》
http://kenjikitagawa.jp/products/detail.php?product_id=47
扉に写し出された男の動く連続写真の足。それは‘1人が2人、2人が3人、3人が5人になって’ゆく。
1人の歩みは何処に向かい、今後誰がその後に続くのだろうか。
《チュイルリーの白い彫像》
http://kenjikitagawa.jp/products/detail.php?product_id=44
フランス・チェイルリー公園の写真。
女性像の曲線と宮殿の直線の対比、蒼い空、白い像と黄色味がある壁という色彩のコントラストが印象的な作品。
この女性像はやはり女神なのだろうか…
チェイルリー宮殿には赤い服を着た男の幽霊が現れるという。
少し調べてみたところ、それは‘テュイルリー宮殿の主が変わるとき、その前触れとして赤い服を着た男の幽霊が屋根の上に現れるという噂があり、ルイ16世の処刑やワーテルローの戦いの前夜に目撃されたと、まことしやかに言い伝えられている’らしい。
暗闇の中にいる赤い男と、蒼穹の下の白い女。 想像した色の対比が美しいと思った。
彼女もまた、人の営み、時代の流れ、国の興亡を見続けているように感じた。
作品に添えられた詩文は、その答えのように思えた。
チェイルリーの庭で見た
非在のトライアングル
白い玩具考
女神の群像から離れて一人
アリアドーネは迷宮に糸を張る
――蒼天の下の劇場の中で’
不思議に思っていた、白い女性像は名前を与えられたことで私のヴィジョンがより明確な物語になった。
私の中で糸は赤い色を帯び、赤い服を着た男の幽霊に繋がり、それがミノタウロスと重なった。
皮膚化したイメージは重なり、奥行きのある物語になっていた。