ジョン・エヴァレット・ミレイ展
『ジョン・エヴァレット・ミレイ展』Bunkamuraザ・ミュージアムにて。
英国の画家、ラファエル前派の一人として知られる彼の回顧展。
唯美主義的作品、子供を主題とした作品、肖像画、風景画など、新たな技法を探求しながら、幅広いジャンルの作品を手がけたミレイ。「ラファエル前派」の画家としてだけではないミレイの魅力を語る展覧会です。
聖書や英文学から主題をとった作品群。写実的に描かれた植物、背景の美しさに圧倒される彼の作品。
中でもシェークスピア『ハムレット』のヒロインをモティーフとした《オフィーリア》は所蔵しているテート・ギャラリーでも人気の作品です。
参考サイト:http://art.pro.tok2.com/M/Millais/Millais.htm
今回の展覧会でも見れる作品が掲載されています。
Ⅰラファエル前派
理想化・様式化されていない、ラファエロ以前の素直で素朴な絵画への懐古主義・回帰を掲げるラファエル前派。
《両親の家のキリスト(「大工の仕事場」)》
本格的な宗教画として発表された作品ですが、ドラマティックではない(わざとらしくない)雰囲気。副題が示す通り、ヨセフの仕事場は写実的な大工の工房。庶民的な雰囲気故に、“ラファエル前派が生み出した最も悪評高い作品”との事。聖性の理想化を否定した作品です。
伝統的宗教画の構図をとりながら、その均衡性を打ち崩すような細部へのこだわり。印象派とは異なる“リアリティ”があります。
《木こりの娘》
木こりの娘に苺を差し出す名士の息子。少年少女の身分違いの恋は、後の悲劇へと繋がることを静かに暗示している絵画。
全体的に彩度の高い緑が使われている中で、一際鮮やかな名士の息子と苺の赤が印象的です。
不機嫌そうにしながらも、笑顔の娘に差し出された苺と、背景で作業をする木こりの父が持つ斧がほぼ一直線上にあり、それが悲劇を物語っています。
《マリアナ》
テニスンの詩をモティーフにしたもの。
難破により持参金を失ったために婚約者アンジェロに捨てられ、堀で囲まれた館で孤独な生活を送る女性・マリアナ。
心理描写を得意とするミレイ。マリアナの性的憧れと葛藤が表されている。腰に手を当て、伸びをしているような姿勢は、女性の身体のラインを意識させるように思えます。
更に物語性を表す細部。彼女の前にあるステンドグラスは《受胎告知》のモティーフ。その受胎の聖性は否定され、マリアナの苦痛が顕著になっているようです。
そして《オフィーリア》
感無量です。ようやく本物を見ることが出来ました。
細部まで描き込まれた背景。
その花々が、花言葉が、オフィーリアの悲劇的な物語を語る。
恋人ハムレットに父親を殺されて正気を失い、小川で溺死する死の劇的な瞬間です。
色々なエピソードがこの絵にありますが、ここでは書けそうに無いです…また改めて。
Ⅱ物語と新しい風俗
ラファエル前派の活動から離れ、広範な主題が取り上げられるようになります。当代の風俗であったり、自身の風刺であったり。しかし、その巧みな心理描写は健在です。
印象に残った素描《脚は壁に付いていなければならない》は身長182センチ、体重57キロであったミレイは、自らを「街灯柱」に例えていた自身への風刺でもあり、同時に二次元の表現媒体の限界に言及したものでもあります。
Ⅲ唯美主義
《エステル》
ペルシア王アハシュエロスの花嫁となったエステルは、ユダヤ人虐殺計画から同胞を救うため、意を決してアハシュエロス王の部屋に入る場面。
毅然とした女性像と、黄と青の鮮やかな衣装に魅かれました。
《姉妹》
この絵も有名ですね。1878年のパリ万博に出展された絵の中の一枚。
何処とも判別出来ない場所、植物に囲まれた背景を前に、白と青の服を纏った美しい姉妹。
統一された色彩と、ミレイの美意識が伺える一枚です。
Ⅳ大いなる伝統
《どうかご慈悲を! 1572年のサン・バルテルミの虐殺》
歴史を主題としたもの。参考:サン・バルテルミの虐殺(ウィキペディア)
カトリック信徒の兵士が、修道僧にせきたてられ、プロテスタントを殺害しに出かける決心を固める。それを思いとどまるように嘆願する尼僧。
宗教の内部にある不寛容と博愛の対立が描写されています。二分されたトケイソウは、狂信が慈愛に勝った事を表しています。
その意図に、強く惹かれました。
Ⅴファンシー・ピクチャー
《初めての説教》《二度目の説教》
一枚目は、礼拝にふさわしい振る舞いをしようと、幼い少女がしゃちほこばって座っている。
二枚目は、眠っている。
二つ並べて飾ってある、“以前”と“以後”の対比。見ていてとても微笑ましいものです。
Ⅵ上流階級の肖像
《ハントリー公爵夫人》
美しい…
ミレイの画家としての成功の目安でもあります。
Ⅶスコットランド風景
《露にぬれたハリエニシダ》
詩的な情景です。朝露に輝く風景。
私的な体験ではありますが、眺めていると澄んだ空気や早朝の冷たい風、爽やかな木々の香りを連想しました。
軽井沢の風景です。
“ラファエル前派の画家”という枠組みから外れた、ミレイの展覧会は初めてではないでしょうか。
ミレイの多様な作風と、その極彩色の世界観を堪能できる展覧会でした。
以下、Web拍手お返事。
いつもWeb拍手有難うございます。
9月22日 9時
9月23日 7時
9月26日 16時,20時
9月27日 17時
10月2日 20時
10月3日 22時
多謝です。